ネットサーフィンをしていると、ふと目に留まる英語のスペルミスに、なんとも言えない違和感を覚えることがあります。
特に、新しいウェブサイトの立ち上げ告知や、お洒落なセレクトショップのポスターなどでよく見かけるあの言葉です。
それが、今回のテーマである「coming」と「comming」の書き間違いです。
お恥ずかしい話ですが、僕自身も若い頃にどちらが正しいのか本気で悩んで、夜な夜な調べた記憶があります。
独り身の部屋でキーボードを叩きながら、画面の向こう側の英語の海に溺れそうになっていたあの頃が懐かしいです。
2026年現在でも、街中の看板やウェブサイトの告知でこのスペルミスを見かけることが本当に多く、そのたびに「あ、またmが重なっているな」と少し残念な気持ちになってしまいます。
今回は、この二つの表記の違いや、なぜ私たちが間違えやすいのかという心理的な罠、そして言葉の奥に隠された壮大な歴史的背景まで、徹底的に解き明かしていきたいと思います。
coming、commingの意味の違いは?
■「coming」と「comming」の違いと役割
結論からはっきりとお伝えしてしまうと、現代の英語において正しいのは**「coming」**のほうだけです。
「comming」というスペルは、現代の標準的な英語においては存在しない誤記、つまりスペルミスとして扱われています。
私たちがよく目にする「coming」は、動詞である「come」の現在分詞、あるいは動名詞の形ですね。
「今、そっちに向かっているよ!」と相手に伝える「I’m coming now.」の表現は、皆さんも日常会話や海外ドラマなどで一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
この言葉は本当に便利で、動詞としての役割だけでなく、名詞の前に置いて「来たるべき次の」という意味を表す形容詞としても大活躍してくれます。
たとえば、会社から配られた書類に「the coming year」と書かれていれば「来たるべき年」になりますし、友人からのメールに「this coming Monday」とあれば「今度の月曜日」を指すことになります。
さらに、何かがやってくることそのものを指す名詞としての役割もあり、「the coming of spring」と表現すれば、美しく心に響く「春の到来」という意味になります。
一方で、mを二つ重ねてしまう「comming」というスペルは、現代の辞書を引いても正しい英単語としては掲載されていません。
一部の非常にマニアックなオンライン辞書などを深く調べていくと、これは大昔の英語における古い綴りだったと説明されているのを見つけることができます。
しかし、現代のビジネスメールや公のウェブサイトでこのスペルを使ってしまうと、ただの教養のないスペルミスとして受け取られてしまうため、注意が必要です。
ここで一つ、非常にデリケートですが大切な注意点をお伝えしておかなければなりません。
実は、発音が全く同じでスペルがとても似ているスラングに「cumming」という表記が存在します。
これは大人の世界で使われる非常に性的な意味合いを強く持つ隠語なので、うっかり日常会話やビジネスのチャットで使ってしまうと、とんでもない誤解やトラブルを招くことになります。
だからこそ、誰かに対して「今向かっています!」と誠実に伝えたい時には、必ずmが一つだけの正しい「coming」を使うように強く意識してほしいのです。
なぜ「comming」と間違えやすいのか?
■間違いを犯しやすいスペルの罠
なぜこれほどまでに多くの人が、mを二つ重ねた「comming」という間違いを犯してしまうのでしょうか。
この謎を紐解くカギは、私たちが学校で習った英語の「ing」の付け方に関するルールにあります。
中学校の英語の授業で、動詞を現在進行形にする時のことを少し思い出してみてください。
動詞の最後の子音を二つに重ねてから「ing」を付ける、という少し面倒なルールを習いましたよね。
たとえば、走るを意味する「run」は「running」になり、泳ぐの「swim」は「swimming」になります。
他にも、切るを意味する「cut」が「cutting」になったり、止まるを意味する「stop」が「stopping」になったりするのも同じルールです。
これらの単語は、発音の観点から「短母音と子音」で終わるため、子音を重ねる必要があるのだと説明されます。
特に「swimming」や、トリミングを意味する「trimming」のビジュアルが頭に強く残っていると、同じように「カミング」と発音する「come」に対しても、ついmを重ねて「comming」と書きたくなってしまう心理が自然と働いてしまうのです。
日本語の「カミング」という音の響き自体が、どこか小さな「ッ」が入るような詰まる音に感じられることも、この勘違いを加速させる原因になっているのかもしれません。
しかし、本来「come」が「ing」形になる時には、全く異なる別のスペルルールが適用されるのです。
英語には、発音しない「e」で終わる動詞の場合、その末尾の「e」を消して「ing」を付けるという大原則があります。
作るを意味する「make」が「making」になり、取るの「take」が「taking」になるのと同じ原理ですね。
「come」の最後にある「e」も、私たちは「カム」と発音して最後は発音しませんから、このルールに従って「e」を取り除き、そのまま「ing」をくっつけます。
そうして出来上がるのが、mが一つだけの「coming」という正しい形なのです。
ウェブサイトのデザインや告知で「Coming Soon」と書きたい時、デザイナーが変に英語っぽさを意識してしまい、ついスペルをひねって「comming soon」としてしまう悲劇を何度も目にしてきました。
僕自身、お洒落なデザインのカフェのホームページでこの間違いを見つけた時、そっと教えてあげるべきか、それとも黙っておくべきか、独りで悶々と悩んだことがあります。
英語の音の響きだけに頼ってスペルを推測しようとすると、このようなルール同士の衝突が起こり、頭の中が混乱してしまうのだなとつくづく実感します。
comeの成り立ち・語源・由来
■言葉の壮大な歴史とルーツ
ここで少し視点を変えて、この言葉がたどってきた何百年もの壮大な歴史の旅に、皆さんを連れ出したいと思います。
実は、先ほど現代では間違いだとお伝えした「comming」という綴りは、16世紀頃の古い英語においてはごく普通に使われていた正しい表記だったのです。
歴史的な文献を調べていくと、1579年に翻訳された有名な『プルタルコス英雄伝』のテキストの中で、実際に「comming」と印刷されているのを確認することができます。
当時は現代のように英語のスペルが厳密に統一されていなかったため、人によって、あるいは本によって綴りに大きな揺れが存在するのが当たり前でした。
その後、時代が進んで印刷技術がさらに普及し、辞書が編纂されていく過程で、スペルの合理化と標準化が進められました。
その流れの中で、無駄な文字を削ぎ落としてシンプルにしようという動きが起こり、余分なmを消した「coming」が正式な形として生き残ったのです。
現代を生きる私たちが間違いだと思っているスペルが、かつては正式なものとして使われていたというのは、なんとも不思議で面白い歴史のいたずらですね。
さらに何千年も時間を遡って、「come」という言葉そのものの語源を探っていくと、さらに驚くべき言語のつながりが見えてきます。
この単語の究極のルーツは、印欧祖語と呼ばれる古代の共通言語に存在した「*gwa-」という小さな語根にあるとされています。
この語根は、「行く」や「来る」、あるいは「移動してある場所に到達する」という、人間の生命活動における根源的な動きを意味していました。
この太古のルーツから、ゲルマン祖語の「*kweman?」という形を経て、やがて古英語の「cumen」へと変化していったのです。
言語学者たちの精緻な研究によると、英語の「come」と、ラテン語で来るを意味する「venio」は、一見すると文字の並びも響きも全く似ていませんが、実はどちらも同じ古代の「*gwa-」という言葉から枝分かれして変化したものなのです。
長い歴史の荒波の中で、異なる土地で暮らす人々が少しずつ発音を変化させていった結果、これほどまでに違う響きになったというのは、まるで一本の木から伸びた異なる枝のようで、ロマンを感じずにはいられません。
さらに、皆さんが日常でよく使う「welcome」という言葉にも、とても興味深い語源の秘密が隠されています。
この言葉は、一見すると「よく(well)来た(come)」という親しみやすい組み合わせのように思えますよね。
しかし、その真の起源は、古英語の名詞「wilcuma」にあります。
この言葉の最初の部分である「wil」は、現代の「well」ではなく、「意志」や「望み」を意味する「will」から来ています。
そして後半の「cuma」は、動詞ではなく、「来る人」や「客人」を意味する古い名詞だったのです。
つまり、「welcome」という言葉が本来持っていた意味は、「心から望まれる喜ばしい来訪者」という、とても温かいおもてなしの心そのものでした。
このように言葉の歴史を深く深く掘り下げていくと、私たちが何気なく口にしている言葉の一つひとつが、何千年も前の人々の感情や暮らしの風景と固くつながっているのだと気づかされ、胸が熱くなります。
まとめ
■確かな言葉を紡ぐためのまとめ
今回は、「coming」と「comming」という、日常に潜む小さなスペルの疑問から出発して、ルールに隠された罠や、言葉の壮大な旅路についてお話ししてきました。
現代の英語を美しく正しく書くためには、mが一つだけの**「coming」**を使うのが唯一の正解です。
「comming」というスペルは、16世紀の英語においては使われていたものの、現代においてはただのスペルミスになってしまいます。
他の「ing」の形につられてmを重ねたくなる気持ちは本当によく分かりますが、これからは「comeのeを消してそのままingを付けるだけ」と心の中で優しく唱えてみてください。
ほんの小さなスペルの一文字にこだわること、そしてその背景にある歴史を感じることで、皆さんが英語を使う時の楽しさが少しでも増えれば、これほど嬉しいことはありません。
お洒落なデザインを描く時も、大切な人にメッセージを送る時も、ぜひ自信を持って正しい「coming」を書き綴ってみてくださいね。
