ミラノ・コルティナ五輪のスノーパーク、リヴィーニョの冷たい空気の中で流された、村瀬心椛選手のあの涙が今も脳裏に焼き付いて離れません。
女子ビッグエアで見事に金メダルを掴み取り、誰もが二冠を確信していたスロープスタイル決勝でしたが、結果は85.80点での銅メダルという、あまりにもドラマチックで、そして残酷な幕切れとなりました。
このスコアが表示された瞬間の彼女の呆然とした表情、そしてその後に溢れ出した悔し涙を見て、胸が締め付けられるような思いをしたのは僕だけではないはずです。
ネット上では今、この採点の妥当性を巡って、スノーボード界のレジェンドから一般のファンまでが入り乱れて熱い議論を戦わせる異例の事態になっていますね。
僕自身、彼女が繰り出したフロントサイド・トリプルコーク1260という女子の限界を超えた大技に鳥肌が立ちましたし、あれが金メダルでないのなら何が評価されるのかと、一時は感情的になってしまいました。
しかし、冷静にルールと照らし合わせてみると、そこにはスロープスタイルという競技が持つ特有の難しさと、ジャッジたちが何を求めていたのかという冷徹な事実が見えてきます。
今回の記事では、村瀬選手の得点の内訳から、素人には分かりにくい最新の採点基準、さらには過去のデータとの比較まで、徹底的に深掘りしていこうと思います。
村瀬心椛のスロープスタイル結果【冬季五輪2026】得点は?
■ミラノ・コルティナ五輪での村瀬心椛の戦績
2026年2月18日、運命の女子スロープスタイル決勝で村瀬選手がマークした最終スコアは85.80点でした。
金メダルに輝いたのは、同じ日本代表で19歳の深田茉莉選手で、その差はわずか2.03点という非常に僅差な争いだったのです。
村瀬選手は予選を1本目の84.93点という高得点で2位通過し、決勝でも1本目から79.30点を出して暫定首位に立つなど、終始メダル争いの中心にいました。
そして逆転を期した運命の3回目、彼女は女子史上初となるフロントサイド・トリプルコーク1260という、もはや異次元と言ってもいいレベルのトリックを完璧に成功させたのです。
このジャンプセクション単体では10点満点という驚異的な数字を叩き出し、会場のボルテージは最高潮に達しました。
しかし、電光掲示板に映し出された順位は3位で、銀メダルのゾイ・サドウスキー=シノット選手にも0.15点届かないという結果に、世界中がどよめきました。
試合後のインタビューで、今までで一番いいランができたと語りながらも、銅メダルという結果に「もっと修行しないといけない」と涙を堪える姿は、見ていて本当に切なかったです。
スロープスタイル採点ルール・基準
■スロープスタイルを支配する採点ルール
そもそもスロープスタイルという競技は、ただ高いジャンプを飛べばいいという単純なものではなく、コース全体の「流れ」と「完成度」が極めて厳格に評価されます。
現在のオリンピックで採用されているのは、セクションバイセクション(SBS)というシステムで、得点の60%が各セクションでの技の評価、残りの40%がラン全体の構成や流れを評価するコンポジションに割り振られています。
村瀬選手が挑んだコースには合計6つのセクションがあり、その内訳は通常3つのジブ(レールやボックス)と3つのジャンプで構成されていました。
ここで重要なのは、各セクションの配分がほぼ均等であるという点で、どんなに凄いジャンプを1回決めても、それは全体の10%程度の評価に過ぎないという現実です。
さらに、ジャッジは「難易度(Difficulty)」だけでなく、「完成度(Execution)」や「高さ(Amplitude)」、そして「着地の安定性」をミリ単位でチェックしています。
特に「ミスがないこと」へのプライオリティが非常に高く、一度の小さなミスが、その後のセクションの点数や全体評価であるコンポジションにまで悪影響を及ぼすという、加点法よりも減点法に近い厳しさがあるのです。
村瀬心椛のスロープスタイル得点の推移
■村瀬心椛が刻んできた過去の得点データ
彼女のこれまでの歩みを振り返ると、常に「女子の限界」を押し広げるような超高難度トリックへの挑戦が、そのまま得点の振れ幅に直結してきたことが分かります。
4年前の北京五輪では、予選を81.45点という高得点で2位通過したものの、決勝では高難度トリックでの着地失敗が響き、40点台が並んで10位という結果に終わりました。
この時のデータを見ても、スロープスタイルでは「フルメイク(全セクションをノーミスで滑りきること)」がいかに絶対条件であるかが痛いほど伝わってきます。
一方で、ワールドカップなどでは80点台後半を安定してマークしており、2024年や2025年のシーズンには何度も優勝を飾っています。
彼女がクリーンに滑りきった時の「85点前後」というのは、世界トップクラスの証であり、ジャッジにとっても一つの基準点になっていると言えるでしょう。
特筆すべきは、2025年11月にはバックサイド・トリプルコーク1620を成功させるなど、ジャンプの技術に関してはもはや男子顔負けの領域に達していることです。
しかし、今回のミラノ五輪のように、ジャンプが完璧であっても勝てないという経験は、彼女のキャリアの中でも特に重い意味を持つことになるはずです。
村瀬心椛のスロープスタイル得点は妥当か?
■今回の85.80点というスコアの妥当性
多くのファンが「なぜあの滑りで金メダルじゃないんだ」と憤りましたが、詳細なスコアシートを分析すると、ジャッジの論理が浮かび上がってきます。
勝敗を分けたのは、実は冒頭の「セクション1」でのレール(ジブ)のミスで、村瀬選手はここでレールから少し早く降りてしまう「早落ち」をしてしまいました。
このセクション1の得点は4.70点と極めて低く、一方で金メダルの深田選手は8.70点と、ここでいきなり4点もの大差がついていたのです。
深田選手は全セクションを通じて最も低い点数でも7.70点と、驚異的な安定感を見せており、まさに「教科書のような完璧な滑り」を揃えていました。
また、全体評価であるコンポジションでも、村瀬選手は36.00点だったのに対し、銀メダルのゾイ選手は38.53点を得ており、ここでも2.53点の差をつけられています。
ジャンプの難易度だけを見れば村瀬選手が圧倒的でしたが、ルール上、最初のレールでの致命的な失点を、後半のジャンプだけで取り戻すのは不可能に近い状況だったわけです。
個人的には、あの魂を揺さぶるようなジャンプにもっと加点があってもいいじゃないかと思わずにはいられませんが、競技としての公平性を保つ上では、この冷徹なスコアもまた一つの正解なのでしょう。
村瀬心椛のスロープスタイル得点と採点ルールの反響】
■世界中から噴出したジャッジへの反響
しかし、この採点結果に対する反発は凄まじく、特に米放送局「NBC」で解説を務めたトッド・リチャーズ氏の怒りは爆発していました。
彼は「史上最悪のジャッジだ」「謝罪が必要だ」とまで言い切り、2022年の平野歩夢選手の時の騒動を引き合いに出して、ジャッジの信頼性を真っ向から否定しました。
「どうして回転数の少ない滑りが、あの完璧なトリプルコークを上回るんだ」という彼の言葉は、多くの視聴者の気持ちを代弁していたと言えます。
SNS上でも「点数の付け方が謎すぎる」「大技に挑戦した選手が報われないのはおかしい」といった、競技のエンターテインメント性を重視する声が溢れました。
その一方で、競技経験者や一部のファンからは、「これがスロープスタイルという種目だ」「レールを失敗したら勝てないのは当然」という冷静な指摘も多く見られました。
特に、深田選手の非の打ち所がないクリーンな滑りを称賛する声も多く、同じ日本勢同士のハイレベルな争いだったからこそ、ファンの心境も複雑に揺れ動いているようです。
AIジャッジの導入を求める声まで上がるほど、今回の村瀬選手の採点は、採点競技が抱える永遠の課題を浮き彫りにした出来事となりました。
まとめ
村瀬心椛選手が手にした銅メダルは、数字以上の価値と、そして多くの課題を僕たちに突きつけました。
彼女が披露した世界初のトリプルコークは、間違いなくスノーボードの歴史に刻まれるべき輝きを放っていましたし、あの挑戦する姿勢こそが、このスポーツの本質だと僕は信じています。
しかし、五輪という舞台での「スロープスタイル」は、極限の難易度と同時に、完璧な正確性とコース全体の調和を求めてくる非情な場所でもありました。
今回の結果を受けて、彼女は「次は絶対に金・金を取る」と、4年後のリベンジを力強く誓っています。
レールセクションという課題が見えた今、技術と精神力の両面でさらに進化した彼女が、次はどんな驚きを僕たちに見せてくれるのか。
一人のファンとして、そして彼女の滑りに魅了された一人として、僕はこれからも彼女の挑戦を全力で追いかけていきたいと思います。
