テレビの画面越しに、あの穏やかで温かい光景が広がった瞬間、僕の胸は高鳴り、同時に言いようのない憧れでいっぱいになりました。
毎週土曜日の夕方に、全国の「第二の人生」を歩む人々を紹介してくれるあの愛すべき番組で、また一つ、私たちの心に深く刺さる素晴らしい楽園が紹介されましたね。
今回スポットライトが当たったのは、民話が今も静かに息づく岩手県遠野市で、広大なブルーベリー農園と温かい民宿を営んでいるご夫婦の物語です。
大自然に抱かれながら、まるで絵本の世界に迷い込んだかのような暮らしを送るお二人の姿に、思わずため息を漏らした方も多いのではないでしょうか。
都会の喧騒から遠く離れ、自らの手で豊かな実りを育て、旅人を我が家のように迎える生活には、私たちが忘れかけていた大切な何かがぎゅっと詰まっています。
今回は、番組を見てどうしてもこの場所を訪れたくなってしまったあなたのために、その魅力のすべてをどこよりも詳しく、そして心を込めてお伝えしていきます。
人生の楽園|岩手・遠野市 ブルーベリー農園/民宿「つくしファーム」
■つくしファームの特徴
つくしファームの目の前に立つと、まずその圧倒的な広さに誰もが言葉を失ってしまうはずです。
東京ドームよりも広いという約1万5000坪もの広大な敷地には、優しく風に揺れる緑の葉と、宝石のようにきらめく紫色の果実がどこまでも広がっています。
この果樹園の最大の特徴であり、何よりも誇れるこだわりは、何と言っても完全無農薬で大切に大切にブルーベリーが育てられているという点です。
お二人は、ブルーベリーが育つ土壌の湿度を適切に保ち、雑草が生えるのを防ぐために、唐松の樹皮であるバークを贅沢に敷き詰めています。
この自然のベールは、歳月を重ねるうちにゆっくりと土に還り、やがて良質な肥料となって木々に極上の栄養を分け与えていくのです。
ここで育つブルーベリーは、実に11種類、約1300本にも及びます。
中でも、まるで五百円玉かと見紛うほどに大きく実るスパルタンという品種は、一口かじればそのジューシーな果汁が口いっぱいに弾け飛びます。
一方で、可愛らしいアーリーブルーという品種は、小粒ながらも驚くほど濃厚な甘みが凝縮されており、甘いものに目がない僕にはたまりません。
夏の陽射しを浴びて完熟した実をその場で摘み取り、指先を紫色に染めながら頬張る時間は、言葉にできないほど贅沢な体験です。
この楽園の魅力は、ブルーベリーの摘み取りだけにとどまりません。
自宅の2階を温もりあふれる空間へと改装した民宿は、1日にたったの1組限定しかゲストを迎え入れない、完全プライベートな大人の隠れ家となっています。
リビングに一歩足を踏み入れれば、木の香りがふんわりと鼻をくすぐり、高い天井が開放的なリラックスタイムを演出してくれます。
夕食時には、大阪出身の奥様が目の前でじっくりと焼き上げてくれる、本場のふわふわお好み焼きがメインの鉄板焼きコースを囲みます。
熱々の鉄板から立ち上る香ばしいソースの匂いと、ご夫婦との軽妙で温かいおしゃべりが、旅の夜をこれ以上ないほど温かく彩ってくれるのです。
さらに、ご主人はなんとプロのドッグトレーナーでもあり、愛犬と一緒に宿泊して、あの広大なドッグランで思いきり駆け回ることもできます。
それだけでなく、ご主人の猟師としての顔を活かしたわな猟の見学や、手作りのブルーベリージャム作りなど、ここには書き尽くせないほどの体験が待っています。
岩手・遠野市 ブルーベリー農園/民宿「つくしファーム」開業の経緯|人生の楽園
■夢の始まりと遠野への軌跡
この奇跡のような楽園を築き上げたのは、打越義之さんと美保子さんという、関西からやってきたご夫婦です。
ご主人の義之さんは、かつて大阪で鉄道会社に勤務し、電車の安全を守るブレーキ整備の技術職として実直に働いていました。
家族のために走り続ける日々のなかで、40代を迎えたころ、ふと「自然の中で静かに暮らしたい」という淡い夢を抱くようになります。
そんな彼の運命を大きく変えたのは、一冊の本との出会い、そして偶然レストランで口にした生のブルーベリージュースでした。
その、これまで味わったことのないような衝撃的な美味しさに感動した彼は、「ブルーベリーの観光農園をやろう!」と心に誓います。
さらに、学生時代に旅した島宿で家族のように優しく迎えられた温かい記憶が蘇り、農園と宿を同時にやるという夢が形をなしていきました。
しかし、理想の土地探しは困難を極め、関西周辺で探し始めてから実に7年という、果てしない歳月が流れていきました。
もう夢は叶わないのかもしれないと諦めかけたその時、インターネットの画面に現れたのが、岩手県遠野市のこの物件だったのです。
そこには、すでに前オーナーが大切に育てていた1000本以上のブルーベリーの成木と、すぐにでも暮らせる家が、静かに二人を待っていました。
義之さんは56歳で早期退職を決意し、愛する奥様と共に、縁もゆかりもない遠野の地へと移住する大きな一歩を踏み出したのです。
開園当初はお客さんが集まらずに悩んだ時期もありましたが、奥様のお好み焼きを近所の人に振る舞ったことから、口コミで少しずつ笑顔の輪が広がっていきました。
かつて旅人として温かさを受け取った青年が、何十年もの歳月を経て、今度は遠野の地で旅人を温かく迎える側になったというストーリーには、胸が熱くなりますね。
岩手・遠野市 ブルーベリー農園/民宿「つくしファーム」場所・アクセス|人生の楽園
■つくしファームへのアクセス
この夢のようなファームを訪れるための、具体的な道のりについてもお話ししておきましょう。
つくしファームは、岩手県遠野市附馬牛町下附馬牛5地割60-2という、豊かな自然に囲まれた静かな集落に佇んでいます。
最寄り駅であるJR釜石線の遠野駅からは、のどかな田園風景を車で眺めながら、およそ15分から20分ほどで到着することができます。
もし遠方から飛行機を利用して来られる場合は、いわて花巻空港からタクシーに乗って約60分ほどのドライブを楽しむのがおすすめです。
ファームは人気の観光施設である「遠野ふるさと村」から、車でわずか5分という非常に分かりやすい場所に位置しています。
夏の澄んだ空気の中、緑豊かな早池峰山の裾野を目指して車を走らせる時間は、日常のストレスを優しく洗い流してくれます。
ナビゲーションを頼りに進んでいくと、緑の山々とどこか懐かしい田んぼの向こうに、ご夫婦が笑顔で待つ木造の美しい建物が見えてきます。
岩手・遠野市 ブルーベリー農園/民宿「つくしファーム」周辺の観光情報|人生の楽園
■遠野の不思議を巡る旅
つくしファームを拠点にして、この「民話の里」が持つ独特の不思議な空気感に浸るのも、この旅の最高の醍醐味です。
特におすすめしたいのが、柳田國男の『遠野物語』に登場し、今もカッパがひょっこり姿を現しそうな常堅寺の裏手のカッパ淵です。
鬱蒼とした木々に囲まれた小川のせせらぎを聞いていると、本当に不思議な生き物たちがすぐそばに隠れているような錯覚を覚えます。
常堅寺の山門をくぐれば、火事を消して狛犬になったという、全国でも極めて珍しい「カッパ狛犬」が私たちを静かに出迎えてくれます。
さらに、遠野地方の古い農家の暮らしぶりをそのまま今に伝える伝承園に足を運ぶのも、知的好奇心を刺激してくれます。
国の重要文化財に指定されている南部曲り家の中で、囲炉裏の煙を眺めながら過ごしていると、何百年も前の人々の息遣いが聞こえてくるようです。
園内には、1000体ものオシラサマが祀られた神秘的な御蚕神堂があり、その静謐な美しさには思わず言葉を失ってしまいます。
そして、牧歌的な水車の音が響き、江戸から明治にかけての曲り家が移築された遠野ふるさと村で、のんびりと里山の時間を歩くのも至福のひとときです。
まとめ
大阪から遠野へと移り住み、未経験からこの素晴らしい楽園を二人三脚で築き上げてきた打越さんご夫婦。
手間暇をかけて育てたブルーベリーが、毎年夏に美しい紫色の実をつけてくれる瞬間が何よりの喜びだと語る彼らの笑顔は、本当に輝いています。
人生の後半戦を迎えたとき、私たちはどのように生きて、どんな物語を紡いでいくべきなのかを、この場所は静かに教えてくれている気がします。
都会の忙しい日々に少し疲れてしまったとき、あの優しい笑顔と、極上のブルーベリー、そして香ばしいお好み焼きが待つ遠野へ出かけてみませんか。
あなただけの新しい旅の物語が、あの美しい山あいのファームから、きっと静かに始まっていくはずです。
