ようやくスクリーンで再会できた『ウィキッド 永遠の約束』の物語において、私たちの心を激しく揺さぶるのは、間違いなくあの「臆病なライオン」の存在ではないでしょうか。
かつての小さな命が数年の時を経て、どのようにして『オズの魔法使い』に繋がるあの姿へと変わっていったのか、その軌跡にはあまりにも切ない真実が隠されていました。
映画を観た後に誰もが抱くであろう、あのライオンへの複雑な感情を解き明かすために、今日は徹底的にその背景を掘り下げていきたいと思います。
ウィキッド2|臆病なライオンとは?
■ライオンの基本プロフィール
今作で圧倒的な存在感を放っている臆病なライオンは、その巨大な体躯に似合わず、常に何かに怯え、声まで震わせている非常に繊細なキャラクターとして描かれています。
彼は単なる動物ではなく、オズの国において知性を持ち、言葉を操ることができる「アニマル(Animal)」という特別な種族の一員です。
今作での声を担当したのは、力強くも繊細な表現に定評のあるコールマン・ドミンゴで、彼の演技がライオンの抱える孤独や恐怖に深みを与えていました。
スクリーンに映し出される彼は、オズの国で進む動物たちへの迫害や、市民権の剥奪という重苦しいテーマを一身に背負った象徴的な存在でもあります。
かつてシズ大学で出会ったあどけない仔ライオンが、これほどまでに悲しげな眼差しを持つ成獣に成長した姿を目の当たりにすると、言葉にできない感情が込み上げてきます。
彼はドロシーと共に黄色いレンガの道を歩むことになる「三人の仲間」の一人として、物語の後半に向けて非常に重要な鍵を握ることになります。
ウィキッド2|ライオンのストーリー中の役割
■物語での立ち回りと役割
劇中での彼は、中盤から後半にかけて非常にショッキングな形でエルファバの前に再び姿を現します。
森に身を潜めながら言葉を奪われた仲間たちを救おうと必死に戦うエルファバに対し、彼は感謝の言葉ではなく、鋭い拒絶の言葉を投げかけるのです。
「彼女こそが動物の敵だ」と暴露する彼の登場により、動物たちはエルファバへの不信感を募らせ、抗戦ではなく逃亡の道を選んでしまいます。
エルファバが魔法使いの命令に抗えず、飛ぶ猿のチステリーたちに翼を授けてしまった事実を彼が明かしたとき、希望が崩れ去る音が聞こえたような気がしました。
その後、彼はブリキの木こりとなったボックや、カカシの姿に変えられたフィエロと共に、ドロシーの旅に同行することになります。
魔法使いから「悪い魔女を倒せ」という命令を受けた彼らは、かつての恩人であるはずのエルファバを狩る側に回るという、皮肉な立ち回りを演じることになるのです。
村人たちと共に「魔女を殺せ」と声を上げる彼の姿は、オズの国全体に広がったエルファバに対する悪意に満ちたプロパガンダを象徴しているかのようでした。
ウィキッド2|ライオンの正体は?【永遠の約束ネタバレ】
■明かされる驚きの正体
このライオンの正体は、前作『ウィキッド ふたりの魔女』でエルファバとフィエロが命懸けで檻から救い出した、あの小さな仔ライオンです。
シズ大学の授業中、ディラモンド教授の後任としてやってきたニキディック教授が実験材料として持ち込んだ、震えていたあの子こそが彼なのです。
エルファバが魔法を使ってクラス全員を眠らせ、フィエロと一緒に森へと逃がしたあの日の救出劇が、すべての始まりでした。
原作小説のシリーズでは「ブル(Brrr)」という名前が与えられ、その過酷な半生が詳しく綴られていますが、映画版ではさらにエルファバとの因縁が強調されています。
ブリキ男がボックであり、カカシがフィエロであるのと同様に、彼もまたエルファバの人生と密接に関わったことで運命が狂わされた一人なのです。
善意から行われた救出が、時を経てこれほどまでに残酷な形で結実する展開には、制作者側の巧みなストーリーテリングを感じずにはいられません。
ウィキッド2|ライオンなぜエルファバを恨む?
なぜ、命を救われたはずの彼がこれほどまでにエルファバを激しく憎んでいるのか、その理由は彼自身の口から「誘拐された」という言葉で語られます。
幼い仔ライオンだった彼にとって、突然檻から連れ出され、見知らぬ森の中にたった一人で置き去りにされた経験は、救済ではなく恐怖そのものでした。
言葉も十分に理解できなかった彼は、エルファバの行動を「平穏な居場所を奪い、過酷な野生に突き落とした悪行」として記憶してしまったのです。
一人では生き抜く術を持たないまま放置された結果、彼は常に外敵を恐れ、ビクビクしながら生きる「臆病なライオン」になってしまいました。
「あのまま檻に入れておいてくれれば、私はこんなに臆病者にならずに済んだのに」という彼の叫びは、あまりにも身勝手ですが、当事者にとっては切実な真実なのでしょう。
自分の戦いを自分でさせる機会を奪われたことが、今の情けない自分を作ったのだと、彼はエルファバへの恨みを募らせていったのです。
善意で始めたはずの解放が、相手の成長を阻害し、結果として自分を滅ぼす牙となって返ってくるという皮肉な展開に、観ていて胸が締め付けられる思いでした。
さらに、エルファバが魔法使いの嘘を暴けず、結果として空飛ぶ猿という「モンスター」を生み出したことも、彼の不信感に拍車をかけています。
まとめ
■ライオンの物語の結末
最終的に、彼はドロシーや仲間たちと共にエルファバの城を訪れ、その最期を見届けるような形となりますが、そこにはさらなる裏事情がありました。
エルファバは自らの「死」を偽装することでオズの国を去り、グリンダに魔法の書と未来を託すという合理的な、そして悲しい選択をします。
ライオンやボックたちが信じている「悪い魔女の最期」は、彼女たちが愛を守り、国を変えるために仕組んだ壮大なトリックに過ぎなかったのです。
映画のラストでは、ドロシーを連れた気球が去った後、グリンダによって動物たちの権利が守られる新しい時代の兆しが描かれています。
彼が求めていた「勇気」が、この偽りの勝利によって得られたのか、それとも本当の真実を知ったときに芽生えるのか、その答えは観客それぞれの解釈に委ねられています。
しかし、かつて自分を救ってくれた手の温もりを思い出せないまま、憎しみの矛先を向け続けた彼の孤独な魂には、やはり同情せざるを得ません。
エルファバの過去の善意が招いた悲劇の象徴として、このライオンは私たちの記憶に深く、そして鋭く刻み込まれることでしょう。
物語は終わりましたが、彼がいつか本当の「勇気」の意味を知り、自分を救ってくれた「魔女」の真実に辿り着く日が来ることを願って止みません。
