小泉八雲が残した二大怪談の真実!朝ドラで話題の「水あめを買う女」と「鳥取の布団」を徹底解剖
最近、朝ドラ「ばけばけ」がめちゃくちゃ熱いですよね!
主人公トキ(松野トキ)と、異国の夫ヘブン(レフカダ・ヘブン)が、怪談という共通の趣味を通じて心を通わせていく様子に、胸がキュンキュンしっぱなしです。
特に第12週で立て続けに登場した小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の有名な二大怪談、「水あめを買う女」と「鳥取の布団」について、ネットでも「切なすぎる」「号泣した」と話題沸騰中です。
今回は、この二つの怪談がなぜ八雲の代表作となったのか、そして朝ドラでの登場シーンがどれほど重要だったのか、僕が深く掘り下げて解説していきますね。
怪談|水あめを買う女,鳥取の布団|小泉八雲の制作過程
■夫婦の物語が怪談文学へ昇華するまで
朝ドラ「ばけばけ」は、日本の怪談を世界に紹介した作家、小泉八雲と、その妻である小泉セツをモデルにしたフィクションのオリジナルストーリーです。
この物語の根幹には、松江の没落士族の娘であるトキ(セツがモデル)と、アイルランド生まれの教師ヘブン(八雲がモデル)という、文化も言葉も異なる夫婦が、互いの孤独や苦悩に共鳴し、やがて「怪談」という共通言語で絆を深めるという流れがあります。
八雲の代表作『怪談』(KWAIDAN)をはじめとする作品群は、まさに妻セツが語り部となり、日本の古い民話や伝説を八雲に聞かせ、それを彼が英語で再話するという共同作業によって生まれたものなのです。
朝ドラの脚本を手掛けるのは、会話劇に定評があるふじきみつ彦さん。
彼らが紡ぐささやかな日常の会話や、怪談を愛するトキの「オタク」的な熱量が、そのまま世界的な文学作品に「化けて」いく過程が描かれているわけですね。
水あめを買う女ネタバレ解説|小泉八雲の怪談
■母の愛は死よりも強い
「水あめを買う女」は、八雲の有名な作品集『怪談』(1904年刊行)に収録されています。
「子育て幽霊」「飴買い幽霊」とも呼ばれ、日本全国に似たような伝承が数多く残る古典的な怪談です。
この話の背景にあるテーマは、幽霊譚でありながらも、「母の愛は死よりも強い」という、極めてヒューマニズムに満ちたものです。
松江の大雄寺(だいおうじ)に伝わる話を八雲が再話したものとされており、八雲自身が幼くして母ローザと生き別れた過去を持つため、この物語の結びの言葉には強い感慨が込められていたと伝えられています。
ちなみに、この幽霊が我が子を養うというモチーフは、日本が誇る大漫画家・水木しげるさんの『ゲゲゲの鬼太郎』の原形「墓場鬼太郎」のルーツとしても知られているんですよ。
起源を遡れば、南宋時代の中国の怪談「餅を買う女」にたどり着くという歴史の深さも、この物語の魅力の一つですね。
水あめを買う女あらすじネタバレ|小泉八雲の怪談
■墓の下から聞こえた赤子の泣き声
物語の舞台は、松江の中原町、大雄寺(だいおうじ)の墓場に隣接する小さな飴屋です。
当時、水飴は麦芽から作られた琥珀色の糖液で、母乳の代わりに赤ん坊に与えられていました。
毎晩夜更けになると、一人の痩せこけて顔色の青ざめた女が、白い着物姿で飴屋を訪れ、決まって水飴を一厘(ごく安価な単位)分だけ買って帰ります。
飴屋の主人は不審に思いましたが、ある晩こっそり女の後をつけてみると、女は中原の大雄寺の墓の前でふっと姿を消してしまいました。
怖くなって引き返した主人でしたが、翌晩、女は水飴を買わずに、今度は主人をじっと見つめ、手招きをして一緒に来てくれと促します。
意を決して主人や寺の者たちが女が消えた墓の前へ行くと、なんと地面の下から赤ん坊の元気な泣き声が聞こえてきました。
急いで墓を掘り起こすと、そこには毎晩飴を買いに来た女の亡骸があり、その傍らには、提灯の明かりににっこり微笑む生まれたばかりの赤ん坊がいたのです。
腹に子を宿したまま亡くなった母親が、墓の中で出産し、幽霊となって水飴を買いに来て、我が子を養っていたという、哀しくも強い母性愛が描かれています。
鳥取の布団ネタバレ解説|小泉八雲の怪談
■セツが語った優しさの怪談
「鳥取の布団」(鳥取のふとんの話)は、八雲の紀行文集『知られぬ日本の面影』(1894年刊行)に収録されています。
この話は、八雲が妻のセツから聞き取った鳥取市(または近郊の浜村温泉)に伝わる古い昔話がもとになっています。
八雲とセツが1891年に新婚旅行で鳥取の浜村温泉を訪れた際、宿の女中からこの話を聞いたという背景も、ロマンチックで心惹かれますよね。
八雲の曾孫である小泉凡さんは、セツが最初の夫(旧鳥取藩士の家系)から聞いた話を八雲に伝えた可能性を指摘しています。
この物語は、幽霊が客を追い出すという怪異の側面を持ちながらも、本質的には貧困の残酷さと、兄弟が互いを思いやる純粋な愛を描いた悲話です。
八雲が着目したのは、声の主である兄弟の「弱き者への共感」であり、八雲文学の重要なテーマの一つとして位置づけられています。
僕が個人的にこの話が好きすぎるのは、凍死という悲劇的な結末を、「神様は純白の新しい布団(雪)をかけてくれた」という詩的で優しい表現で締めくくっているところです。
鳥取の布団あらすじネタバレ|小泉八雲の怪談
■「あにさん、寒かろう」「おまえ、寒かろう」
鳥取の町で新しく開業した宿屋に、ある日、行商人の客が泊まります。
夜中に客が目を覚ますと、部屋のどこからか幼い子供たちの声が聞こえてきます。
「あにさん、寒かろう」「おまえこそ寒かろう」。
最初は子供が迷い込んだと思った客でしたが、誰もいないにもかかわらず声は続き、やがてその声が、自分が寝ている布団の中から聞こえていることに気づき、恐怖のあまり宿を飛び出します。
その後も怪異は続き、酒を飲まない客までもが同じ訴えをしたため、ついに宿の主人も自らその布団に寝てみて、一晩中、その悲しい囁き声を聞くことになります。
主人が布団の由来を辿っていくと、その布団は町はずれの貸屋に住んでいた貧しい兄弟の最後の形見であることが判明します。
両親を亡くした幼い兄弟は、食べるために家財を売り尽くし、最後に残ったのがその一枚の布団だけ。
しかし、大寒の日に冷酷な家主が家賃の代わりにその布団まで奪い、兄弟を雪の中に追い出してしまいます。
行くあてのない兄弟は、凍える寒さの中、家の軒先で「あにさん、寒かろう」「おまえこそ寒かろう」と抱き合い、そのまま寒さを感じない遠い世界へと旅立ってしまったのです。
哀れに思った宿の主人がその布団を寺に持ち込み供養をすると、それ以来、布団がものを言うことはなくなったという結末です。
朝ドラ「ばけばけ」での怪談登場シーン
■ヘブンの涙とトキの「ゾーン」
この二つの怪談が、朝ドラ「ばけばけ」の中でどのように描かれ、トキとヘブンの関係に影響を与えたのかを見ていきましょう。
物語の第12週「カイダン、ネガイマス。」では、金縛りに悩まされたヘブンが、トキの勧めで大雄寺(「水あめを買う女」の舞台)へお祓いに向かいます。
大雄寺の住職として登場したのは、ベテラン俳優の伊武雅刀さん。
伊武さんの「魅惑の低音ボイス」で語られた「水あめを買う女」は、「圧巻の2分10秒」とネットで大反響を呼びました。
八雲のモデルであるヘブンは、この話に初めて触れ、すすり泣きながら感動するのです。
ヘブンは「怪談…モット ホシイ!」と興奮し、この怪談を自分の滞在記の「ラストピース」にしたいと強く願います。
ここで、トキは意を決して、自分が人並外れた怪談好きであることをヘブンに告白します。
ヘブンは、トキが持っていた怪談本ではなく、「アナタ、ノ、コトバ、デナケレバ、イケマセン」と、トキ自身の言葉で語ることを強く求めます。
そして、第58話でトキが部屋の明かりを消し、ろうそくの灯りだけにして語り始めたのが、「鳥取の布団」でした。
このシーンでは、トキを演じる髙石あかりさんの雰囲気がガラッと変わり、「おトキちゃん、ゾーンに入った顔になった」とSNSで絶賛されました。
ヘブンは、日本語で語られるその怪談を夢中で聞き、意味がわかるまで「何度も何度も聞かせてほしい」とせがみます。
長年、自分の趣味を隠してきたトキにとって、やっと「好きなだけ怪談を話せる喜び」を感じた、まさに夫婦の心が通じ合った象徴的な瞬間だったと言えるでしょう。
まとめ
■怪談が照らす愛と共生の道
小泉八雲の残した「水あめを買う女」と「鳥取の布団」の二つの怪談は、ただ怖いだけでなく、その裏に隠された「深い哀しみ」と「尽きることのない愛」を描いています。
「水あめを買う女」が母性愛の強さを、「鳥取の布団」が兄弟愛と貧困の残酷さを描いているように、これらは八雲が日本で出会った「古き良き日本の面影」や、弱者に寄り添う心性を象徴しているのです。
八雲とセツ(ヘブンとトキ)の夫婦関係が、言葉や文化の違いを超えて、怪談という共通の共感を通して深まったように、これらの物語は、異なる背景を持つ人々が理解し合い、助け合うことの美しさを教えてくれている気がします。
怪談を語り終えた後のトキとヘブンの清々しい表情を見ていると、彼らがまさに「怪談」というラストピースを通じて、お互いにとってかけがえのない存在になったことを感じ、僕もなんだか心が温かくなりました。
