藤子・F・不二雄先生のSF短編って、本当に読み出すと止まらない魅力がありますよね。
今回はその中でも、僕が個人的に「これはすごい!」と心底震えた傑作、『みどりの守り神』について語り合いたいと思います。
先生の作品は「ドラえもん」のような優しい世界観から入る人が多いと思うんですけど、SF短編に触れると「え、同じ作者が描いたの!?」って衝撃を受けることがよくありますよね。
この作品も、まさにそんな衝撃作の一つなんです。
みどりの守り神ネタバレ|あらすじ
物語は、高校生のみどりが両親との飛行機旅行中に事故に遭うところから始まります。
目を覚ますと、そこは墜落した雪山のはずなのに、なぜか真夏のような暑さで、見渡す限り緑の密林が広がっているんです。
生き残ったのは、みどりと坂口五郎という男性の二人だけ。
助けを求めて山を下り始める二人ですが、そこで遭遇するのは奇妙な現象の数々です。
みどりの怪我をした足は一夜にして緑色の苔に覆われ、すっかり治ってしまうんです。
空腹になれば、どこからともなく美味しそうな木の実が現れる。
川に落ちて溺れかかれば、まるで意思を持っているかのようにツタが二人を助け上げてくれます。
そうして歩き続けた二人がたどり着いたのは、ジャングルと化した東京でした。
ビル群が植物に覆い尽くされた光景は、まさに圧倒的です。
廃墟となったビルの中で坂口が見つけた古新聞から、この世界の恐ろしい真実が明らかになります。
どこかの国が開発した細菌兵器が流出し、それが地球上の人間どころか、動物や昆虫までも全てを死滅させてしまったというんです。
そのあまりにも絶望的な事実に、坂口は錯乱して叫び声をあげ、みどりの前から走り去ってしまいます。
一人残されたみどりは、自分の家を見つけますが、孤独に耐えきれず、自らの命を絶とうとします。
みどりの守り神ネタバレ考察|最後の結末の意味は?
みどりが自殺を図った後、意識を取り戻すと、見知らぬ男性・白河貴志が傍にいました。
傷は不思議な「みどりのカビ」によって癒され、白河もまた、かつて雪崩で命を落としかけた際にこのカビに救われたというんです。
白河は、この世界に何百年もの時間が流れたこと、そして植物が「動物との共生」のために独自の進化を遂げたことを語ります。
植物は二酸化炭素を必要とし、動物は酸素を必要とする、その生命の循環が途絶えたことで、植物は動物の細胞を再生させる能力を持つようになった、と。
つまり、植物たちは自らの生存のために、人間を含む動物たちを「守り神」として再生させていたんです。
この説明には本当に鳥肌が立ちました。
そして、白河はみどりと共に、世界には他にも再生した人間がいるはずだと信じ、北を目指す新しい旅に出る決意をします。
二人が歩き出す空には、たくさんの鳥たちが舞い飛んでいました。
このラストシーンは、本当に希望に満ちていますよね。
狂気に囚われた坂口とは対照的に、知性的な白河の登場によって、絶望的な世界に一筋の光が差し込むんです。
鳥たちの群れは、動物の命もまた再生し始めていることを示唆していて、地球が再び生命の循環を取り戻していく、そんな力強いメッセージを感じます。
もしかしたら、坂口もいつかこの新しい世界で、人間として生き直せる日が来るんじゃないか。そんな風に想像すると、さらに感動が深まります。
みどりの守り神|感想は?
この作品は、多くの読者にとって忘れがたい衝撃を与えてきました。
「ドラえもん」でお馴染みの先生の絵柄で描かれる、人類滅亡というヘビーなテーマや、極限状態での人間の醜さが、かえって心に突き刺さるんです。
僕も初めて読んだ時、「まさかこの絵で、こんなにエグい話を描くなんて…!」と度肝を抜かれました。
特に、坂口のキャラクターには賛否両論ありますよね。
みどりに暴言を吐き、自己中心的に振る舞う彼の姿は、読んでいて確かに不快感を覚えるかもしれません。
でも、同時に「もし自分が同じ状況に置かれたら、彼のように理性を失ってしまうのではないか」と、読者自身に問いかけてくるリアリティがあるんです。
彼の弱さや脆さが、かえって人間の本質を浮き彫りにしているように感じて、すごく考えさせられます。
そして、どんな状況でも希望を捨てず、他者を思いやるみどりの「善性」が、対比としてより一層際立つんですよね。
また、近年、新型コロナウイルスのパンデミックを経験したことで、この作品のテーマが持つ予見性に驚いた人も多いんじゃないでしょうか。
細菌による人類滅亡という設定は、まさに現代社会が直面した危機と重なり、改めて先生の洞察力に感服しました。
みどりの守り神|この作品のテーマを考察
『みどりの守り神』が伝えるテーマは、大きく分けて二つあると思います。
一つは、「人間と自然の共生」、そしてもう一つは、「極限状態における人間の本質」です。
作品の中では、人類が作り出した兵器によって自らを滅ぼすという、科学の傲慢さが痛烈に批判されています。
人間が地球の支配者であるかのように振る舞い、自然を破壊し続けた結果が、この破滅的な世界なんです。
しかし、物語の終盤では、植物が自らの意志で動物の再生を促すという、逆転の発想が示されます。
これは、人間中心主義に対する強烈なアンチテーゼであり、私たちに「自然と人間は対等な命のパートナーである」という、忘れてはならないメッセージを投げかけているように思います。
SDGsの目標15「陸の豊かさも守ろう」にも通じる、普遍的な環境問題への警鐘でもありますよね。
そして、もう一つのテーマである「人間の本質」。
文明という外皮が剥がれ落ちた世界で、坂口は恐怖と絶望から理性を失い、醜い本性を露わにします。
でも、みどりのように、孤独や絶望の中でも優しさや希望を持ち続けようとする姿も描かれています。
これは、「人が本当に強いとはどういうことなのか」を深く考えさせてくれるんです。
支配や暴言は、実は自己の不安の裏返しであるという坂口の「壊れ方」は、まさに現代の人間関係にも通じるものがあると感じました。
僕も、ついつい焦ると口調が冷たくなったり、不機嫌になったりすることもあるので、坂口の姿は他人事ではないなと、胸がチクリと痛みました。
まとめ
『みどりの守り神』は、ただのSF作品として終わらず、私たち自身の生き方や、人間と自然の関係について、深く静かに問いかけてくるんです。
この作品を読み終えた後には、きっと皆さんの心にも、新しい未来への希望の灯りがともるはずですよ。
ぜひ、一度手に取って、この「少し不思議」で深い世界を体験してみてください。