こんにちは、はるをです!
この記事ではエイドリアン・ブロディ主演、ブラディ・コーベット監督が、戦後アメリカを舞台に、移民建築家の数奇な運命を描くヒューマンドラマ「ブルータリスト(原題:Brutalist)」について解説!
ホロコーストを生き延びた建築家が、アメリカンドリームの陰で芸術と自我の狭間で苦悩する、3時間35分の壮大な叙事詩です。

アカデミー賞10部門ノミネートで3部門受賞、ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞受賞、天才建築家の創造と破壊を描いた衝撃作だよ。
ブルータリスト(映画)実話がモデル?
今回の映画「ブルータリスト」、ずいぶんと話題になっていますよね。私も公開前から気になっていた作品の一つです。
まず、多くの方が気になるであろう点からお話ししましょう。
「ブルータリスト」は、まるで重厚な歴史の証言のような雰囲気を持っているため、「これって実話が元になっているの?」と感じた方も少なくないのではないでしょうか。
私も予告編を初めて見たとき、その迫力と主人公の苦悩に、史実に基づいた物語なのかもしれない、と感じました。
しかし、結論から言うとこの物語、完全なフィクションとして創作されたものだと明言されているんです。
主人公のラースロー・トートという建築家も、物語の中に登場する出来事も、すべて監督ブラディ・コーベットの想像から生まれたものなのです。
ただ、全くの創作でありながら、なぜこれほどまでに「実話っぽく」感じるのでしょうか?
それは、この映画が、ホロコーストを生き延びた移民建築家の苦難や、当時のアメリカ社会の背景を非常にリアルに描いているからでしょう。
監督自身も、伝記のように日付を追うのではなく、テーマに対して自由に表現したかったと語っています。
主人公のラースロー・トートには、ブルータリズム建築の先駆者として知られるマルセル・ブロイヤーというハンガリー出身のユダヤ人建築家が、インスピレーションの源の一つになっていると考えられています。
ブロイヤーもバウハウスで学び、ナチスの台頭によってアメリカへ移住したという共通点があります。
監督のコーベットは、ブロイヤーが経験した反ユダヤ主義も、この映画を着想するきっかけになったと語っています。
このように、実在の人物の要素を織り交ぜることで、フィクションでありながらも、深いリアリティと重みを持たせているのかもしれませんね。
ブルータリスト(映画)あらすじ※ネタバレ注意
それでは、この心を揺さぶる物語が、どのような道のりを辿っていくのか、結末までのあらすじを詳しく見ていきましょう。
物語は、第二次世界大戦下のホロコーストを生き延びたハンガリー系ユダヤ人の建築家、ラースロー・トートが、妻エルジェーベト、そして姪のジョーフィアと強制的に引き離され、一人アメリカへと渡る場面から始まります。
異国の地で、彼は家族との再会を願い、新たな生活を築こうとしますが、そこには様々な困難が待ち受けています。
アメリカで、ラースローは著名な実業家ハリソン・ヴァン・ビューレンと出会います。
ハリソンは、ラースローのハンガリーでの輝かしい実績を知り、彼の才能に惚れ込みます。
そして、ラースローの家族の早期アメリカ移住と引き換えに、亡き母に捧げるための壮大な礼拝堂、つまりコミュニティセンターの設計と建築を依頼するのです。
しかし、母国とは文化もルールも異なるアメリカでの設計作業は、ラースローにとって想像以上に困難な道のりとなります。
彼は、アメリカに移住していた従兄弟を頼りますが、その妻に快く思われず、結局ハリソンからの依頼に懸命に取り組むことになります。
ハリソンは、ラースローの才能を認めながらも、その傲慢さから、時にラースローを翻弄します。
ラースローの妻エルジェーベトと姪のジョーフィアもようやくアメリカに到着し、家族との新しい生活が始まるかに見えましたが、巨大な建築プロジェクトに没頭するラースローは、次第に創造の狂気に囚われていきます。
物語の中盤では、ハリソンとの関係がより複雑さを増していきます。
イタリアへの大理石採掘の旅の途中、ハリソンは酒に酔ったラースローに性的暴行を加えるという衝撃的な出来事が起こります。
この出来事は、ラースローの心に深い傷跡を残し、彼は次第に苦悩を深めていきます。
一方、妻のエルジェーベトは、ホロコーストの経験から心身ともに疲弊し、病に苦しんでいます。
ラースロー自身も、その苦しみから逃れるようにヘロインに手を染めてしまいます。
そして、エルジェーベトはヘロインの過剰摂取によって一時危篤状態に陥りますが、奇跡的に一命を取り留めます。
そして、物語はクライマックスへと向かいます。エルジェーベトは、ハリソンの卑劣な行為を告発することを決意し、単身で彼の邸宅へと乗り込みます。
家族や同僚たちの前で告発されたハリソンは、深く動揺し、その場から姿を消してしまうのです。彼の運命は、その後の物語では明確には語られません。
物語の終盤、そして多くの観客の心を捉えるのが、エピローグの場面です。1980年、ヴェネツィア・ビエンナーレで、高齢となったラースロー・トートの回顧展が開かれます。
しかし、彼はすでに体を自由に動かすことも、言葉を発することもできません。そこで、彼の代わりにスピーチを行うのが、姪のジョーフィアです。
ジョーフィアは、ラースローが建設したコミュニティセンターについて、驚くべき事実を語ります。
その建物の内部は、実はラースローが強制収容所で収容されていた兵舎をモデルにしているというのです。ただし、一つだけ異なる点がありました。それは、天井がより高く設計されているということです。ジョーフィアは、この高い天井に、ラースローの自由への強い希求が込められていると説明します。
そして、ジョーフィアは、若い頃のラースローから聞いた言葉として、「他人が何を言おうとも、大切なのは到達地だ。旅路ではない」という言葉を紹介し、スピーチを締めくくります。
この結末は、多くの観客に深い問いかけを残しました。
ラースローにとっての「到達地」とは何だったのでしょうか。そして、彼の辿った苦難の「旅路」は、本当に意味のないものだったのでしょうか。
この点については、様々な考察が見られます。監督自身も、この結末を意図的に曖昧にし、観客それぞれの解釈に委ねているのかもしれませんね。
ブルータリスト(映画)キャスト・相関図
さて、この重厚な物語を彩る魅力的なキャストとその役柄についても触れていきましょう。
主人公のラースロー・トートを演じるのは、アカデミー賞主演男優賞受賞経験もあるエイドリアン・ブロディです。
彼の憂いを帯びた表情や、内に秘めた情熱を繊細に表現する演技は、観る者の心を深く捉えます。
ホロコーストのトラウマと、建築への強い情熱の間で揺れ動くラースローの姿を、見事に体現していると言えるでしょう。
ラースローの妻エルジェーベト・トートを演じるのは、フェリシティ・ジョーンズです。彼女は、戦争の傷跡を抱えながらも、夫を支えようとする強く知的な女性を演じきっています。
特に、病に苦しみながらも、毅然とハリソンに対峙する場面は、彼女の気高さが際立っていました。
そして、ラースローの運命を大きく左右する実業家ハリソン・ヴァン・ビューレンを演じるのは、ガイ・ピアースです。
彼は、富と権力を誇示し、時に残酷な一面を見せる複雑なキャラクターを、圧倒的な存在感で演じています。
その傲慢さや、ラースローに対する屈折した感情は、物語に深みと緊張感を与えています。
ラースローの姪ジョーフィアは、幼少期をラフィー・キャシディが、そして成長後をアリアーヌ・ラベドが演じています。
特に、エピローグでのジョーフィアの言葉は、映画全体のテーマを改めて考えさせる重要な役割を担っています。
この他にも、ラースローをアメリカで initially 支える従兄弟アティラ役のアレッサンドロ・ニボラや、ハリソンの息子ハリー役のジョー・アルウィンなど、実力派の俳優たちが物語を支えています。
ブルータリスト(映画)感想は?
では、実際にこの映画を見た人たちは、どのような感想を抱いたのでしょうか。
まず多くの方が長尺であることに触れています。しかし、その長さを感じさせないほど見応えがあったという意見も多く見られます。
途中に15分の休憩(インターミッション)があることも、長尺ながらも集中して見られる工夫の一つかもしれません。
エイドリアン・ブロディの演技は、多くの人が絶賛しています。彼の内面から滲み出るような演技は、観客をラースローの苦悩に引き込みます。
また、映像美や音響、美術の素晴らしさを指摘する声も非常に多いです。
特に、35mmフィルムで撮影された映像の質感や、大胆な構図などが評価されているようです。ブルータリズム建築そのものに興味を持ったという感想も見られました。
物語の内容については、移民の苦難や差別、そしてアメリカンドリームの現実といったテーマが深く描かれていることに心を打たれたという感想が多く見られます。
また、実話と間違えたという声も多数あり、それだけ物語にリアリティがあったということでしょう。
一方で、エピローグの解釈については、様々な意見があるようです。
主人公の真意が分かりにくいと感じたり、後出しのように感じたという声もあります。しかし、この曖昧さこそが、この映画の深みなのかもしれませんね。
ハリソンというキャラクターの傲慢さや残酷さに嫌悪感を抱いたという感想も見られました。
彼の行動は、当時のアメリカ社会、あるいは現代社会にも通じる闇を描いているとも言えるかもしれません。
また、映画に政治的なメッセージを感じ取ったという意見もあります。特に、シオニズムやイスラエルに関する描写については、複雑な思いを抱いたという感想も見られました。
ブルータリスト(映画)評価は?アカデミー賞3冠!
最後に、この映画に対する評価を見ていきましょう。
「ブルータリスト」は、第81回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞、第82回ゴールデングローブ賞では作品賞(ドラマ部門)、主演男優賞(ドラマ部門)、監督賞を受賞するなど、数々の映画祭で高い評価を得ています。
そして、第97回アカデミー賞では、作品賞、監督賞、主演男優賞を含む10部門にノミネートされ、最終的に主演男優賞、撮影賞、作曲賞の3部門を受賞しました。
アメリカでの公開当初は小規模だったものの、その芸術性の高さや話題性から徐々に劇場数が増え、興行収入も成功を収めたようです。特に若い観客層からの支持も厚かったようです。
映画批評家からの評価も非常に高く、Rotten Tomatoesなどのレビューサイトでは高評価を得ています。
「今年最も予想外のオスカー候補」と評されたり、「今見るべき映画」として現代社会への批評性を指摘するレビューもありました。
しかし、観客の感想にもあったように、長尺であること、難解に感じる部分があること、そしてエピローグの解釈が分かれることなどが、評価を左右する要因となっている可能性もあります。
レビューの中には、3時間半の上映時間を全く苦に感じなかったという声もあれば、長すぎると感じたという声もあるように、上映時間に対する評価は賛否両論です。
「ブルータリズム」というタイトルは、単に建築様式を指すだけでなく、映画全体の荒々しさや剥き出しの感情、そして主人公たちの置かれた残酷な現実をも象徴しているのかもしれません。
私自身も、この映画を観て、人間の強さ、弱さ、そして芸術への情熱といった様々な感情が深く刻まれました。
特に、歴史の波に翻弄されながらも、自身の信念を貫こうとする主人公の姿は、心を強く揺さぶられました。
同時に、アメリカという地における移民の苦難や、資本主義社会の光と影も描かれており、考えさせられる内容でした。
エピローグについては、正直なところ、私も最初は戸惑いを覚えました。しかし、様々な考察を読むうちに、監督が意図的に観客に解釈の余地を与えているのではないか、と感じるようになりました。
ラースロー・トートという架空の建築家の人生を通して、私たち自身の「旅路」と「到達地」について、深く考えさせられる作品なのかもしれませんね。
皆さんもぜひ、この「ブルータリスト」をご覧になって、それぞれの心に残る何かを感じ取ってみてください。きっと、忘れられない映画体験になるはずです。
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