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怪談|牡丹灯籠(落語)と月照寺の大亀伝説あらすじネタバレ|小泉八雲との関係

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朝ドラ「ばけばけ」の物語が深まるにつれて、劇中に登場する怪談や伝説のルーツが気になって夜も眠れないという方も多いのではないでしょうか。

劇中で語られた『牡丹灯籠』や松江の月照寺にある巨大な大亀の石像は、単なる演出ではなく、日本の歴史や文化に深く根ざした壮大なバックグラウンドを持っているのです。

一人のブロガーとして、またこのドラマに魅了されたファンとして、今回はこれら二つの怪談について、その歴史からあらすじ、そして小泉八雲との深い繋がりまでを徹底的に掘り下げていきたいと思います。

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怪談|牡丹灯籠(落語)とは?

■日本三大怪談の傑作『牡丹灯籠』の歴史と生みの親

『牡丹灯籠』、あるいは『怪談牡丹燈籠』は、四谷怪談や皿屋敷と並んで「日本三大怪談」の一つとしてあまりにも有名ですね。

この傑作を創り上げたのは、幕末から明治期にかけて八面六臂の活躍を見せた落語家の三遊亭圓朝です。

驚くべきことに、圓朝がこの物語を創作したのは彼がわずか25歳の時だったと言われています。

彼は浅井了意の怪奇物語集『御伽婢子』や、牛込の旗本家で聞いた実話、深川の米問屋に伝わる怪談などからインスピレーションを得て、この一大スペクタクルを完成させました。

その中でも『御伽婢子』は、中国明代の小説集『剪灯新話』にある「牡丹燈記」を翻案したものであり、物語の骨組みには中国の薫りが色濃く残っています。

1884年には速記本が刊行され、当時は生でしか聴けなかった圓朝の語りが文字で読めるようになったことで爆発的なブームを巻き起こしました。

この速記本は文学界にも多大な影響を与え、二葉亭四迷が言文一致体を編み出すきっかけになったというから驚きです。

一人の落語家が紡いだ言葉が、日本の現代文学の礎になったと考えると、なんともロマンを感じずにはいられません。

怪談|牡丹灯籠(落語)あらすじネタバレ

■愛と裏切りが交錯する『牡丹灯籠』のあらすじ

『牡丹灯籠』には、一般的に知られている幽霊との恋を描いた短編版と、因果応報が複雑に絡み合う全22章の長編版が存在します。

まずは、切ない悲恋として語り継がれる短編版の物語から見ていきましょう。

江戸の根津清水谷に住む内気な美男の浪人、萩原新三郎はある晩、美しい娘・お露と出会い、一目で激しい恋に落ちます。

二人は再会を誓いますが、新三郎が会いに行けないうちに、お露は恋い焦がれた末に亡くなってしまいます。

お盆の十三日の夜、新三郎が独りで過ごしていると、「カラン、コロン」という駒下駄の音が近づき、牡丹の花の灯籠を手にした女中のお米を伴って、死んだはずのお露が現れます。

喜びの中で逢瀬を重ねる二人でしたが、新三郎の下男である伴蔵が部屋を覗くと、そこには骸骨に抱きつかれている主人の恐ろしい姿がありました。

幽霊の正体を知った新三郎は、和尚から授かった魔除けのお札を家中にはり、金の海音如来像を肌身離さず持って閉じこもります。

しかし、家に入れないお露の霊は伴蔵夫婦の元を訪れ、お札を剥がしてほしいと百両という大金を積んで懇願します。

金の魅力に負けた伴蔵とお峰の夫婦は、新三郎を騙して海音如来を盗み出し、お札をすべて剥がしてしまいました。

翌朝、新三郎は冷たくなって発見され、その首筋には髑髏が齧りついていたというなんとも凄惨な結末を迎えます。

長編版あらすじ・ネタバレ

一方で、長編版はこれだけでは終わりません。

物語は新三郎が死ぬよりずっと前、お露の父である飯島平左衛門が刀屋の店先で黒川孝蔵を斬り殺した因縁から始まります。

その後、殺された男の息子である孝助が仇とは知らず飯島家に奉公し、そこにお露の恋物語や伴蔵のさらなる悪事が幾重にも積み重なっていくのです。

新三郎の死後、伴蔵夫婦は手に入れた百両を元手に故郷の栗橋宿で荒物屋を開き成功を収めますが、伴蔵は酌婦のお国と浮気をし、それを咎めた妻のお峰を幸手堤で殺害してしまいます。

最後にはお峰の幽霊が伴蔵の奉公人に乗り移って悪事を暴露し、伴蔵は捕らえられて処刑されるという、徹底した勧善懲悪のドラマが展開されます。

幽霊よりも生きている人間の方が恐ろしいと感じさせるこの構成は、現代のサスペンスにも通じる鋭さがありますね。

怪談|牡丹灯籠(落語)の影響

■文化的意義と今に受け継がれる派生作品

『牡丹灯籠』は、日本の幽霊に「足がある」という中国的な特徴を色濃く残しながらも、日本独自の湿り気を帯びた恐怖と悲恋を融合させた稀有な作品です。

落語として誕生したこの噺は、1892年に五代目尾上菊五郎主演で歌舞伎化され、歌舞伎座が大盛況になるほどの人気を博しました。

それ以降、映画では東千代之介主演の作品から、山本薩夫監督による傑作、さらには近年の中村七之助や上白石萌音が出演したNHKのドラマまで、時代ごとに形を変えて演じられ続けています。

個人的には、男女の情愛だけでなく、百両という大金――現代の価値でいえば約800万から1000万円ほどに目がくらむ人間の業を描いた部分に、時代を超えたリアリティを感じます。

この作品は、日本人が持つ「死者への未練」や「因果への恐れ」という精神性を象徴する文化遺産と言えるでしょう。

月照寺の大亀伝説あらすじネタバレ

■松江の月照寺に伝わる「大亀伝説」のあらすじ

さて、舞台を島根県松江市に移しましょう。

「ばけばけ」のオープニングや劇中でも印象的に描かれている、あの巨大な大亀の石像には、背筋が凍るような伝説が残されています。

松江藩主の菩提寺である月照寺の境内に鎮座するこの大亀は、夜になると動き出し、近くの蓮池の水を飲み干し、さらには町へと這い出していったと言われています。

伝説によれば、この亀は城下町を徘徊しては人を襲い、食い殺すという恐ろしい怪物だったそうです。

困り果てた寺の住職が夜に大亀を待ち伏せて仏の教えを説いたところ、大亀は涙を流して「自分でも暴れるのを止められない」と懺悔しました。

そこで住職が大きな石碑をその背中に乗せて封じたことで、ようやく怪異は収まったのだと伝えられています。

ドラマでも描かれたこの「封印の物語」は、現地の人々の間では今も語り草になっている有名な怪談なのです。

月照寺と大亀像

■月照寺の概要と歴史・大亀像の正体

月照寺は、1664年に松江藩初代藩主・松平直政公が、生母である月照院の菩提を弔うために再興した由緒ある浄土宗の寺院です。

境内には九代にわたる藩主の廟所が立ち並び、国の史跡にも指定されている非常に格式高い場所として知られています。

話題の大亀像は、六代藩主・松平宗衍公の生前供養のために、その子である不昧公(七代治郷公)が建立した「寿蔵碑」の台座です。

像の大きさは高さ約2メートル、長さは約5メートルにも及ぶ巨大なもので、その存在感は圧倒的です。

実はこの像、厳密には亀ではなく、中国の伝説上の霊獣「贔屓(ひいき)」という龍の子供なのだそうです。

贔屓は「重いものを背負うのを好む」という特性があるため、位の高い人物の墓碑を支える台座として使われる伝統的な形式でした。

石材は出雲市久多見町からわざわざ切り出し、宍道湖を経由して運ばれたというから、当時の工事の規模の大きさが窺い知れますね。

歴史的背景と大亀像の二面性

なぜこの像が怪談になったのか、その歴史的背景も非常に興味深いものです。

建立された当初は、父の徳を称え長寿を願う「親孝行の亀」としての意味合いが強く、実際、今でも亀の頭を撫でると長生きできるという縁起物としての信仰が残っています。

しかし、その巨大さと不気味なほどの迫力から、江戸時代後期にはいつの間にか「夜な夜な動き回る」という噂が立ち始め、今の怪談へと変化していきました。

面白いのは、亀の首にある裂け目です。

伝説では「暴れるのを止めるために斬られた跡」や「首をぶち砕いた跡」とされていますが、冷静に見れば単なる地震による損壊のようにも見えます。

このように、恐怖と祝福、フィクションと現実が同じ石像の上で同居している様子こそ、日本の怪談が持つ独特の美学だと僕は感じます。

月照寺の大亀伝説と小泉八雲との関係

■小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)との深い関連

この月照寺を誰よりも愛した文化人の一人が、小泉八雲ことラフカディオ・ハーンです。

八雲は松江滞在中に妻のセツと共にたびたびこの寺を散策し、その静謐で寂びた雰囲気を絶賛していました。

彼は自身も月照寺に埋葬してほしいと願うほど、この場所の静寂を心から好んでいたようです。

八雲の著書『知られざる日本の面影』の中では、この大亀を「化け亀」として紹介し、真夜中に蓮池を泳ぐ恐ろしい姿を想像してみよと読者に語りかけています。

彼が日本各地に伝わる伝承を収集し、世界に紹介する活動の原点の一つが、まさにこの月照寺の大亀伝説にあったのです。

セツが語る地元の怪談を八雲が聞き入り、それを美しい文章で再構成する――。

そんな夫婦の共同作業から、僕たちが今知る「日本の怪談文化」が確立されていったのですね。

朝ドラ「ばけばけ」での登場シーン

ドラマ「ばけばけ」の第64回では、この月照寺が物語の重要な転換点として描かれました。

ヒロインのトキとかつての夫である銀二郎、そして未来の夫となるヘブンとイライザ、通訳の錦織の5人が大亀像の前で偶然鉢合わせるという、気まずいながらも目が離せないシーンです。

そこでヘブンの希望により、トキが蝋燭を灯して大亀の伝説を生き生きと語り聞かせ、その様子にヘブンが食い入るように耳を傾けます。

この時、二人の間に流れる「怪談を通じた強い繋がり」を目の当たりにした銀二郎とイライザが、嫉妬を覚える描写が実に切なかったですね。

さらに、その帰り道に銀二郎が宍道湖畔でトキに対し、「東京へ来たら『牡丹灯籠』という怪談落語を一緒に聴きに行こう」と再プロポーズをする場面は、今回の大きなハイライトでした。

松江の怪談(大亀)と東京の怪談(牡丹灯籠)が、登場人物たちの恋心と交差しながら、物語の伏線を美しく構築していく演出には、ブロガーとしても唸らされるものがありました。

まとめ

『牡丹灯籠』と月照寺の「大亀伝説」――この二つの怪談は、時代も場所も異なりますが、どちらも人間の情念や畏怖の念を鮮やかに映し出しています。

朝ドラ「ばけばけ」を通して、これらの物語に光が当たったことは、僕たちが忘れかけていた「古き良き日本の面影」を再発見する素晴らしい機会になったのではないでしょうか。

松江の寺院に佇む動かぬ石亀も、夜な夜な下駄の音を響かせる幽霊も、すべてはかつての人々が生きた証であり、愛や欲望の形そのものです。

もし島根を訪れる機会があれば、ぜひ月照寺に立ち寄って大亀の頭を撫でながら、その背中にある石碑の重みに思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

その時、あなたの耳にも「カラン、コロン」というあの駒下駄の音が聞こえてくるかもしれませんよ。

それはきっと、過去から現代へと語り継がれる、消えることのない情熱の響きなのですから。

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