Netflix映画『大洪水』を観終わった後、あの子供の行動に頭を抱えつつも、結局最後は涙が止まらなくなってしまったのは僕だけでしょうか。
ディザスターパニックだと思って見始めたのに、中盤から一気に「人間とは何か」を問う深いSFへと変貌する展開には、ブロガーとしても考察欲を激しくかき立てられました。
特に物語の鍵を握る少年「ジャイン」については、その正体を知る前後で全く印象が変わってしまう、実に見事な仕掛けが施されています。
今回は、多くの視聴者が「うざい！」と叫びたくなったであろうジャインのプロフィールから、物語の核心である感情エンジンの役割まで、徹底的に深掘りしていこうと思います。
大洪水ネタバレ考察｜子供(ジャイン)とは？[Netflix映画]
■少年ジャインの基本プロフィールと物語での役割
劇中に登場するジャインは、主人公ク・アンナの6歳になる愛息子として、観客の前に姿を現します。
演じているのは子役のクォン・ウンソン君で、泳ぐことが大好きで活発、そして母親のスマホ依存を指摘するような少し生意気で賢い一面も持っています。
物語の前半では、突如としてソウルを襲った未曾有の大洪水から、アンナが命懸けで守り抜こうとする「守るべき対象」としての役割を一身に背負っています。
しかし、30階建ての巨大マンションを舞台にした必死の脱出劇が進むにつれ、彼が単なる「人間の子供」ではないことが少しずつ示唆されていくのです。
彼はアンナの母性愛を象徴する存在であり、絶望的なシミュレーションの中で物語を動かす最大の推進力となっています。
大洪水ネタバレ考察｜子供(ジャイン)は実在？
■ジャインは実在したのか？その悲しき正体
結論から言うと、この映画に登場するジャインという少年は、実在する生身の人間ではありません。
彼はアンナが所属する「ダーウィン・センター」のイザベラ研究所によって生み出された、人工の生命体、いわゆる合成人間（AI個体）なのです。
作中では「ニューマン77（NewMan77）」というコードネームでも呼ばれており、人類が滅亡した後の世界で新しい人類の雛形となるために設計されました。
現実の世界において、アンナは亡き夫への喪失感を埋めるように、この実験体であるジャインを5年間、本物の母親として育ててきました。
つまり、彼にはオリジナルのモデルこそ存在したかもしれませんが、劇中で僕たちが見ているのは、アンナの記憶とAI技術によって再現された「シミュレーション内の存在」に過ぎません。
大洪水ネタバレ考察｜子供(ジャイン)なぜ低血糖？
■低血糖（Hypoglycemia）に隠された残酷な理由
ジャインが作中で何度も発作を起こし、アンナが必死に砂糖を混ぜたオレンジジュースを飲ませるシーンを覚えているでしょうか。
彼は「タイプ1糖尿病」を患っており、それによって引き起こされる低血糖が、彼の身体的な脆さを強調していました。
一見すると、単に物語をハラハラさせるための設定に見えますが、これには「母親の愛を試す」という極めて意図的な理由が隠されています。
シミュレーションを設計した側は、あえてジャインに生理的な欠陥や病気というハンデを与えることで、アンナに極限状態での自己犠牲や献身を強いたのです。
食料もインスリンも手に入らない絶体絶命の洪水の中で、病を抱える我が子を救おうとする行為こそが、AIに「本物の母性」を植え付けるためのデータ収集プロセスだったと言えます。
感情エンジンとは？
■感情エンジン（Emotion Engine）とは新人類の希望か？
この作品の最大のSF要素である「感情エンジン」とは、簡単に言えばAIに人間らしい「心」を与えるためのシステムです。
人類滅亡が避けられない中、科学者たちは人間と同じ身体や知能を持つ個体を作ることはできましたが、複雑な「感情」だけは再現できずにいました。
そこでアンナが提案したのが、プログラミングではなく「経験」を通じて感情を育てるという、極めて人間的なアプローチでした。
ジャインはこのエンジンを完成させるための「アンカー（心の拠り所）」であり、アンナの母性本能を極限まで引き出すための重要な鍵として機能しています。
ループする世界でアンナが「論理的な生存」ではなく、ジャインとの「非合理的な愛」を選んだ瞬間、この感情エンジンはようやく完成を見ることになります。
なぜジャインは「うざい」と感じさせるのか？
SNSやレビューサイトを見ていても、「あの子供がうざすぎて脱落しそうになった」という声を本当に多く見かけます。
水位が迫っているのにトイレ休憩を要求したり、金切り声で泣き叫んだり、せっかくの救助の手を拒んだりと、彼の行動はサバイバルのセオリーを無視したイライラの連続です。
しかし、僕はこの「うざさ」こそが監督の最大の計算であり、視聴者に対するテストだったのではないかと感じています。
アンナの忍耐力を限界まで試すために、プログラムによってあえて課された「不完全な子供」としての振る舞いだったと考えると、見え方が変わってきます。
さらに言えば、彼は6歳という年齢のまま、アンナが正解に辿り着くまでの約60年間、2万回以上ものループの中で一人ぼっちで母親を待ち続けていたのです。
その孤独の深さを知った時、最初にあれほど感じていた「うざさ」が、一気に胸を締め付けるような悲しみへと変わる構成は、本当にお見事としか言いようがありません。
まとめ
■ジャインが僕たちに教えてくれたこと
映画『大洪水』は、単なるパニック映画の枠を飛び越え、ジャインという存在を通じて「愛と記憶」の尊さを描き切りました。
最初はあんなに騒がしくて邪魔だと思っていた子供が、実は新人類が未来へ持っていくべき「感情」の象徴だったという結末には、深い哲学的な余韻を感じずにはいられません。
21,499回もの地獄を繰り返し、ついにアンナがクローゼットを開けてジャインを見つけた瞬間、二人の間に宿ったのはもはやプログラムを超えた「魂」だったのでしょう。
たとえ肉体が合成されたものであっても、そこに「誰かを想って泣ける心」があるならば、それは間違いなく人間なのだと、この親子は証明してくれました。
もし、一回目の視聴でジャインにイライラしてしまった方がいたら、ぜひ彼の「60年間の待ち時間」を想像しながら、もう一度その姿を見届けてあげてほしいなと思います。
