スピッツの名曲「楓」を観た後のあの何とも言えない心地よい喪失感は、一体どこから来るのでしょうか。
1998年に彼らが放った名曲が、27年の時を経て銀幕に蘇るというニュースは、僕たちの世代にとって胸が熱くなる出来事でした。
2025年12月19日に公開された映画「楓」は、単なる恋愛映画の枠を軽々と飛び越え、深い喪失と再生を描いた魂の物語として僕たちの前に現れました。
冬の澄んだ空気の中で、大切な人を思い出しながらこの映画の余韻に浸っている方、あるいはこれから劇場へ足を運ぼうとしている方へ向けて、この作品の魅力を余すことなくお伝えしたいと思います。
楓（映画）wiki｜作品情報
■映画「楓」が描き出す繊細な愛と再生の物語
本作のメガホンを取ったのは、「世界の中心で、愛をさけぶ」で日本中に涙の雨を降らせた名匠・行定勲監督です。
脚本には「ソラニン」や「東京リベンジャーズ」シリーズを手掛けた高橋泉さんが名を連ねており、強力なタッグによって令和を代表する上質なラブストーリーが誕生しました。
主演を務める福士蒼汰さんは、ニュージーランドでの不慮の事故で命を落とした弟・恵と、そのふりをして生きることを決めた双子の兄・涼という、非常に難しい一人二役に挑戦しています。
ヒロインの木下亜子を演じるのは福原遥さんで、事故のショックから混乱し、目の前の涼を恵だと思い込んでしまう繊細な女性を熱演しました。
物語の舞台は、共通の趣味である天文の本や望遠鏡に囲まれた二人の幸せな生活から始まりますが、そこには「言えない秘密」が幾重にも重なっています。
実は涼は学生時代から亜子に恋心を抱いており、弟のふりを続ける背景には、そんな切なすぎる過去の想いも隠されていたのです。
脇を固めるキャストも非常に魅力的で、二人の真実を知る唯一の幼馴染・梶野を宮沢氷魚さんが、涼を慕う後輩の日和を石井杏奈さんが演じています。
さらに、亜子が通うバーの店長・雄介役としてTravis Japanの宮近海斗さんが登場し、物語に温かなスパイスを加えています。
音楽面でも、スピッツの原曲に加えて十明さんやSUPER BEAVERの渋谷龍太さんによるスペシャルカバーが劇中を彩り、感情の波をより一層大きなものにしています。
個人的には、亜子の視界が二重に見えてしまう「複視」という設定と、主演の「福士」さんの名前が重なるような演出に、言葉にできない運命的なものを感じてしまいました。
楓（映画）｜原作は？
■原作は存在するのか？名曲から生まれた新たな命
多くのファンが気にする「原作」の有無ですが、この映画には特定の小説や漫画といった原作は存在しません。
スピッツの楽曲「楓」そのものが「原案」となっており、その歌詞の世界観からインスピレーションを受けて構築された完全なオリジナルストーリーなのです。
草野マサムネさんが綴った「さよなら 君の声を 抱いて歩いていく」という一節が、そのまま映画の魂となって息づいているのを感じます。
ただし、映画の感動を文字でより深く味わいたいという方のために、公式ノベライズ版が発売されていることは見逃せません。
執筆は山本瑤さんが担当しており、集英社文庫から682円という手に取りやすい価格で、映画公開に先駆ける形で世に出されました。
ノベライズ版は映画の脚本に基づいて細かく描写されているため、鑑賞後に「あの時、涼はどんな気持ちだったのか」と振り返るには最高のテキストと言えるでしょう。
楓（映画）｜ロケ地・撮影場所は立川、長崎やテカポ
■聖地巡礼に欠かせないロケ地・撮影場所の詳細リスト
映画の世界に浸るためのロケ地は、大きく分けてニュージーランドと日本の三つの県にまたがっています。
まず、物語の象徴的な舞台となったのが、ニュージーランド南島にあるテカポ湖周辺です。
ここは世界最大の星空保護区としてゴールドティアに認定されており、劇中の「彗星」や「天体観測」というテーマにぴったりの場所でした。
「善き羊飼いの教会」の上空に広がる満天の星空や、ミルキーブルーに輝く湖畔の景色は、観る者の心に一生残るほどの美しさです。
福士蒼汰さんが「思わず美しいと感じた」と絶賛した星空観測シーンは、標高約1,031mのマウント・ジョンにある天文台付近で撮影されました。
また、フェアリーという町ではポストカードを投函するシーンが、オマラマではカフェでの穏やかな交流がカメラに収められています。
ゴドリー・ピークス・ロードでは、撮影を一時中断させたというエピソードもあるほどの羊の群れが、ニュージーランドらしい風景を作り出していました。
国内に目を向けると、東京都立川市が非常に重要な役割を果たしており、特に「GREEN SPRINGS」の噴水広場や中央広場は、都会のオアシスとして印象的に登場します。
多摩モノレールの立川北駅前にある「サンサンロード」では、福士蒼汰さんが全力で疾走する力強いシーンが撮影されました。
涼と恵の重要な場面が描かれた諏訪の森公園は、ファンなら必ず訪れたい聖地の一つと言えるでしょう。
千葉県香取市では、高校時代の回想シーンとして「千葉県立小見川高等学校」や、実家・水田風景が広がる「高萩地区」が選ばれました。
そして、物語の転換点となる病院のシーンは、群馬県の下仁田町にある「下仁田厚生病院」でロケが行われています。
実際に営業している病院ですので、訪れる際は外観を眺める程度にするなど、マナーを守って巡りたいですね。
ニュージーランドのロケ地（テカポ・南島中心）
映画の多くがニュージーランド南島で撮影され、特にテカポ湖周辺が舞台。世界最大の星空保護区（アオラキ・マッケンジー国際星空保護区、IDA認定ゴールドティア）として知られ、世界で3ヵ所しかない最高ランクの星空スポット（他はナミビアのナミブ砂漠、アイルランドのアイベラ半島）。ミルキーブルーの湖水、雪山、羊の群れが特徴で、主人公たちの再会や内省のシーンに活用。ロケ期間中、福士蒼汰と福原遥が現地入りし、絶景に感動したエピソードが語られている。ニュージーランド政府観光局はロケ地巡りを推奨し、専用ツアーを展開中。
- テカポ湖 (Lake Tekapo)
- 地理的詳細: 南島中央部、マッケンジー盆地に位置する湖。面積約83km2、水深最大120m。氷河の岩粉によるミルキーブルーの水面が有名。人口約500人の小さな町で、周囲をサザンアルプスに囲まれ、夜空の光汚染が極めて低い。
- 撮影シーン: 湖畔の風景が全編にわたり登場。彗星観測や星空の下での感動的な再会シーン。善き羊飼いの教会 (Church of the Good Shepherd) 上空の天の川や南十字星が象徴的に映る。エンドロール後の特別映像でも湖のタイムラプスが使用。
- 関連エピソード・秘話: 福士蒼汰が「思わず美しいと感じた」と絶賛したスポット。福原遥の姿と湖の景色がマッチし、監督が行定勲が即興で追加撮影を決めた。X投稿では、ユーザーが「映画のロケ地としてテカポ湖の星空が最高」「南十字星が見えるタイムラプスは必見」と共有（例: @5TXFLdt2ncQVLWgの動画投稿）。ロケ中、羊の群れが自然に入り込み、予定外の可愛らしいシーンが生まれた。
- 訪れ方・観光情報: クライストチャーチ空港から車で約3時間、クイーンズタウンから約3時間。バスツアーあり。湖畔レストランでサーモン丼を楽しむランチオプション（約4,500円）。映画公開記念ツアー（トラベルスタンダードジャパン主催）で、福士・福原が訪れたスポットを巡り、旅行代金385,000円?。公式ロケマップ（アスミック・エースサイト）で湖畔の写真が公開。
- マウント・ジョン (Mount John)
- 地理的詳細: テカポ湖を見下ろす標高約1,031mの山。山頂にカンタベリー大学マウント・ジョン天文台があり、16インチ天体望遠鏡を備える。
- 撮影シーン: 昼のテカポ湖一望シーンと夜の星空観測。主人公がつながる「星空」モチーフの核心部。双眼鏡やレーザーポインターを使った解説シーン。
- 関連エピソード・秘話: 夜の星空ツアーがロケで再現。ガイドが南半球の星座（南十字星、マゼラン雲）を説明するシーンは、現地ダークスカイ・プロジェクトの協力による。福士が「星空が降ってくるよう」と感動。Xで「映画楓のロケ地で星空観察したい」との投稿多数。
- 訪れ方・観光情報: テカポ市内から専用車で山頂へ（約40分）。星空観賞ツアー（混載バス、双眼鏡付き）。Astro Cafeでコーヒーを楽しみながら景色を満喫。映画記念で俳優ポーズの写真スポットあり。
- ゴドリー ピークス ロード (Godley Peaks Road)
- 地理的詳細: テカポ湖近くの田園道路。羊牧場が広がる。
- 撮影シーン: 羊の群れがいる風景。双子の兄弟の回想や自然との調和を表す。
- 関連エピソード・秘話: 羊が物語の可愛いアクセント。ロケ中、羊の群れが道路を横断し、撮影が一時中断したエピソード。
- 訪れ方・観光情報: テカポから車でアクセス。羊観察ツアーあり。
- フェアリー (Fairlie)
- 地理的詳細: テカポ湖から南へ約30kmの町。田舎風の風景。
- 撮影シーン: ポストカード投函シーン。羊の群れも一部ここで。
- 関連エピソード・秘話: 日常的な行動が感情表現に。Xで「ニュージーランドの自然豊かなシーンが印象的」との声。
- 訪れ方・観光情報: バスでアクセス。ポストカードショップあり。
- オマラマ (Omarama)
- 地理的詳細: テカポ湖から南へ約1時間の町。カフェが多い。
- 撮影シーン: カフェでの交流シーン。
- 関連エピソード・秘話: キャラクターの関係性を深める場。ロケ中、現地カフェオーナーがエキストラ出演。
- 訪れ方・観光情報: 車でアクセス。周辺の温泉も人気。
日本のロケ地は千葉・東京（立川）・群馬など
日本国内は、千葉・東京・群馬で撮影。日常や過去のシーンが多く、ニュージーランドの壮大さと対比。支援は香取市、立川ロケーションサービス、あさひロケーションサービス協議会、下仁田フィルムコミッションから。
- 千葉県香取市
- 千葉県立小見川高等学校: 高校外観シーン。天文観測関連。
- 高萩地区: 実家、水田、高校時代の野原天体観測。望遠鏡を使った過去回想。秘話: 地元住民がエキストラ。
- 訪れ方: JR成田線小見川駅近く。ロケ地巡りマップあり。
- 東京都立川市
- GREEN SPRINGS (緑町3-3-1): 複合施設。噴水広場でリフレッシュシーン。秘話: 行定監督がイメージにぴったりで日程変更して優先撮影。ドラマ『ハコヅメ』もここで。映画関係者が「最注目」の背景: 映えスポットが多く、アクセス良し（JR立川駅徒歩8分）。
- サンサンロード (曙町2): 福士蒼汰が全力疾走シーン。冬のイルミネーションも。
- 諏訪の森公園: 涼と恵の重要シーン。ロッカー内アングルがファン人気。入口に映画ポスターあり。Xで「ロケ地巡り後の鑑賞が楽しみ」と投稿（@sumire_530）。
- 訪れ方: 多摩モノレール立川北駅徒歩。グリーンスプリングスはショップ・レストラン充実。
- 群馬県下仁田町
- 下仁田厚生病院 (下仁田409): 病院シーン（事故後）。秘話: 実際の病院使用で、内部訪問は控えるよう注意。
- 訪れ方: 上信電鉄下仁田駅徒歩5分。ロケ地巡りは外観のみ。
まとめ
■忘れられない想いを胸に歩き出すためのまとめ
映画「楓」は、誰かを失った痛みを抱えながらも、それでも続いていく日常を肯定してくれるような、温かい眼差しに満ちた作品でした。
劇中で繰り返される「バターが溶けて、流れ込んでいく」という不思議なおまじないのような言葉が、観終わった後もずっと耳に残っています。
「僕のままで どこまで届くだろう」という歌詞の通り、涼が自分自身の人生を生きようと模索する姿には、勇気をもらった人も多いはずです。
行定監督が描く映像美と、スピッツの音楽が溶け合う120分間は、まさに極上の映画体験と呼ぶにふさわしいものでした。
もしあなたが今、何かに迷ったり、大切な誰かとの距離に悩んでいるのなら、ぜひこの映画を劇場で体感してみてください。
エンドロールで流れる本家の「楓」を聴き終えた時、きっとあなたの心にも新しく、そして美しい変化が訪れていることでしょう。
この冬、一番切なくて愛おしい物語を、あなた自身の目で確かめてみてくださいね。
