豪華絢爛なホテルを舞台に、潜入捜査官とホテルマンが難事件に挑む『マスカレード・ホテル』は、何度観ても新しい発見がある贅沢なエンターテインメント作品ですよね。
稀代のストーリーテラーである東野圭吾さんの作家生活25周年を記念して執筆されたこのミステリーは、2019年に待望の映画化を果たしました。
木村拓哉さんと長澤まさみさんという、日本を代表する二大スターの初共演が実現したことでも、公開当時は大きな話題をさらったのを覚えています。
監督を務めたのは「HERO」シリーズなどでも知られる鈴木雅之さんで、独自のテンポ感と華やかな映像美が物語を一層引き立てていましたね。
マスカレード・ホテル(映画)|作品情報
■華麗なるスタッフとキャストの共演
物語の核となるのは、警視庁捜査一課の刑事である新田浩介と、優秀なフロントクラークの山岸尚美という、正反対の信念を持つ二人のバディです。
新田を演じる木村拓哉さんは、劇中でその鋭い洞察力を武器に、宿泊客という「仮面」を剥ごうと奮闘します。
対する長澤まさみさん演じる山岸は、お客様を信じ、その「仮面」を守り抜こうとするホテルマンの矜持を見事に体現していました。
脇を固めるキャストも小日向文世さんや松たか子さん、渡部篤郎さんといった主役級が勢揃いしており、誰が犯人でもおかしくない緊張感が漂っています。
東野圭吾さんの原作イメージを大切にするために、実際に東野さんが執筆時に利用していたホテルが取材協力として名を連ねているのもファンには堪らないポイントでしょう。
マスカレード・ホテル(映画)ロケ地・撮影場所|ロビー・横浜
■聖地巡礼で巡る撮影場所の真実
映画の象徴とも言える「ホテル・コルテシア東京」は、実は複数の場所やセットを組み合わせて作り上げられた架空の空間です。
まず、あの圧倒的な存在感を放つロビーは、日本最大級の広さを誇る東宝スタジオの8番ステージに組まれた巨大なセットでした。
あまりに精巧な作りに、共演者の小日向文世さんが写真を撮りまくったり、木村拓哉さんも細部へのこだわりに感嘆したりしたというエピソードも残っています。
一方で、物語の舞台裏となる客室や廊下、エレベーターホールなどは、日本橋にある「ロイヤルパークホテル」で実際に撮影が行われました。
このホテルは原作者の東野圭吾さんの常宿としても知られており、原作小説の表紙写真にもここのロビーが使われているんですよ。
また、映画の終盤で新田と山岸が食事を共にするシーンは、早稲田にあるリーガロイヤルホテル東京の中国料理店「皇家龍鳳」がロケ地です。
劇中の外観シーンはCGで合成されていますが、横浜にある結婚式場「ザ コンチネンタル横浜」がそのモデルになったと言われています。
新田と山岸が屋上で言葉を交わす重要なシーンには、代々木にある山野美容専門学校の屋上が使われており、遠くに東京タワーが見える絶好のロケーションでした。
さらに、小日向さん演じる能勢が聞き込みに訪れたお城のシーンは、愛知県の名古屋城で撮影されており、一瞬のカットながら作品に広がりを持たせています。
マスカレード・ホテル(映画)|感想
■絶賛されるプロ意識のぶつかり合い
この映画の最大の魅力は、やはり「疑うのが仕事」の刑事と「信じるのが仕事」のホテルマンによる、プロ意識の対比にあります。
最初は衝突してばかりの二人が、次第に相手の仕事に対する情熱を認め、信頼を築いていく過程は、見ていて非常に胸が熱くなるものがありました。
特に長澤まさみさんの凛とした所作や言葉遣いは、本物のホテルマンかと錯覚するほど美しく、作品に気品を与えています。
音楽についても、仮面舞踏会を意識した重厚でミステリアスな旋律が、観客を非日常の世界へといざなってくれる素晴らしい仕上がりでした。
また、友情出演している明石家さんまさんをフロントのシーンで探すという、ちょっとした遊び心が用意されているのも面白いですよね。
個人的には、犯人役を演じたある俳優さんの「化け方」があまりに凄まじく、正体が明かされた時の衝撃は今でも忘れられません。
■惜しいと感じてしまうミステリーの穴
一方で、熱心な映画ファンやミステリー愛好家からは、いくつかの厳しい意見も寄せられています。
犯人の動機やトリックについて、少し理不尽であったり、現実離れしていたりするように感じてしまう部分があるのは否めません。
特に警察の捜査方法や連携について、ドラマチックな演出を優先するあまり、リアリティに欠けるという指摘も見受けられます。
また、豪華なキャストを活かすためのエピソードが多く、本筋の事件解決に至るまでのテンポが少し緩やかに感じられるかもしれません。
映画というよりも「豪華なスペシャルドラマ」を観ているような感覚に陥ってしまい、物足りなさを覚える人もいるようです。
まとめ
■仮面の下に隠された真実を求めて
『マスカレード・ホテル』は、単なる犯人探しに留まらない、働く大人たちの矜持を描いた上質な群像劇です。
誰もが何らかの仮面を被って生きているというテーマは、現代社会を生きる私たちにとっても深く共感できる部分があるのではないでしょうか。
たとえミステリーとしての整合性に多少の粗があったとしても、それを補って余りある俳優陣の熱演と、絢爛豪華な世界観がここにはあります。
今夜は、映画に登場したロイヤルパークホテルのスイーツやカクテルを思い浮かべながら、もう一度彼らの物語に浸ってみるのも悪くないかもしれませんね。
ホテルという名の迷宮で、あなたも自分自身の「仮面」と向き合ってみてはいかがでしょうか。
迷宮の入り口は、いつも豪華なシャンデリアの下に開かれているのです。
