映画『ラストマイル』の考察って、本当に奥が深いですよね。
特に、ラストシーンでディーン・フジオカさん演じる五十嵐道元の表情が、多くの方の心に引っかかったんじゃないでしょうか。
「あのいつも冷静沈着な五十嵐さんが、なぜあんな表情を？」って、私も劇場で思わず前のめりになりました。
今日は、その五十嵐さんの行動と表情に込められた意味について、一緒に深掘りしていきましょう。
きっと、あなたの心にも響くものがあるはずです。
ラストマイル(映画)ネタバレ考察｜五十嵐(ディーン・フジオカ)という男の「これまで」
まず、五十嵐道元という人物を振り返ってみましょう。
彼はDAILY FAST日本支社の統括本部長という、まさにエリート中のエリートでしたね。
作中では、舟渡エレナさんの上司として登場し、どんな時も冷静でスマート、そして効率を何よりも優先する人物として描かれていました。
言い換えれば、人間味が希薄で、どこか冷酷にさえ感じられる存在でした。
彼は、物流を滞りなく動かし続けるためには、感情は無用、むしろヒューマンエラーの元だと考えていたのかもしれません。
彼の指揮の下、「死んでも止めるな」という指示が出され、山崎佑さんがベルトコンベアに飛び降りた際も、彼自身が直接手を下すことはなく、あくまで「システム」として処理を進めさせました。
山崎さんの飛び降りの原因も、個人的な恋人との関係だと周囲に説明させ、会社側の問題を隠蔽しようとした背景もあります。
この時、五十嵐さんは、山崎さんを「弱い人間だから自殺を図った」と思い込んでいたようです。
自分はそんな部下を持った被害者だ、とすら考えていたフシがありました。
まるで、巨大なシステムの歯車として、自分も他人も同じように扱っていたかのようでしたね。
ラストマイル(映画)ネタバレ考察｜「もう一個、爆弾がある」その言葉の衝撃
物語の終盤、エレナさんがアメリカ本社のサラに放った「爆弾はまだある」という言葉は、私たち観客だけでなく、五十嵐さんにとっても大きな衝撃だったはずです。
物理的な爆弾は全て処理されたはずなのに、なぜエレナさんはそんなことを言ったのか。
五十嵐さんは、エレナさんが会社の、そして自分自身の過去の隠蔽を暴く「決定的な証拠」を握っているのではないかと焦ったに違いありません。
本社から「エレナが言っていた爆弾って何だ？」と詰め寄られたのかもしれませんね。
そこで彼は、もしかしたら山崎さんが会社を告発するような「遺書」を残していたのではないか、と不安に駆られ、必死にロッカーを探し始めます。
この時の彼は、いつもの冷静な五十嵐さんではなく、明らかに動揺し、何かを恐れている「人間」の顔をしていました。
ロッカーの暗号、その“重み”との遭遇
そして、五十嵐さんはついに、山崎佑さんのロッカーに書かれたあの暗号を目にすることになります。
「2.7m/s→0」「70kg」。
この暗号は、実は彼がこれまで一度も見たことがなかったものでした。
なぜなら、このメッセージは、五十嵐さんのような上層部に知られないよう、現場の社員たちの間でひっそりと、代々引き継がれてきた「秘密のバトン」のようなものだったからです。
「2.7m/s」はベルトコンベアの速度、「70kg」は耐荷重。
山崎さんは、自分の体重70kgをもってして、この止まらないベルトコンベアを止め、稼働率をゼロにしようとした。
それは、弱い人間が自ら命を絶つための行動ではなく、人間性を無視するようなシステムに対する、ギリギリの抵抗であり、叫びだったのです。
この暗号を初めて見た瞬間、五十嵐さんは、これまで自分が山崎さんに対して抱いていた「弱い人間」という見方が、全くの間違いだったことに気づかされたはずです。
彼が軽蔑していたのは、実はシステムに抗おうとした一人の人間の尊厳だったのです。
ラストマイル(映画)ネタバレ考察｜最後の結末の五十嵐(ディーン・フジオカ)の意味
暗号の意味を理解し、五十嵐さんが立ち尽くしてベルトコンベアを見下ろすあのラストシーン。
彼の表情には、これまで見せたことのない「絶望」や「衝撃」、そして深い「後悔」が複雑に入り混じっていました。
彼は、自分が長年信じてきた「効率こそが正義」という考えが、いかに多くの犠牲の上に成り立っていたのかを痛感したのではないでしょうか。
そして、その犠牲者の中に、自分自身が「死んでも止めるな」と命じた山崎さんがいたこと。
その山崎さんが、実はシステムを止めようと、自らを犠牲にしたのだという真実に、彼は心を打ち砕かれたのだと思います。
あの瞬間、五十嵐さんは、自分もまた、あのベルトコンベアという社会の巨大な歯車の一つであり、いつか自分も「ガラクタ」として処理される可能性を突きつけられたのかもしれません。
これまで「人間らしさ」を捨ててシステムに徹してきた彼が、ようやく「人間」としての感情を取り戻し、自分自身の内面と向き合うことになった、そんな瞬間だったと私は解釈しています。
私たちの「ラストマイル」へ
五十嵐さんの最後の表情は、私たち観客への問いかけでもあります。
便利さを追求するあまり、無意識のうちに誰かを追い詰めている「加害者」になっていないか。
そして、自分自身も、いつの間にか「止まらないベルトコンベア」の上で疲弊し、「被害者」になっていないか。
彼の苦悩は、現代社会に生きる私たちの「ラストマイル」に通じる、非常に人間味あふれる、胸に迫るものだったと感じました。
この映画が私たちに投げかけるメッセージは、決して他人事ではない、身近な問題として心に刻まれることでしょう。
あなたも、もう一度五十嵐さんの最後の表情を思い出して、その意味を考えてみませんか。
きっと、新たな発見があるはずです。
